犬が兄弟になりまして・40
こう見えてリクとカイは犬なので、抜群に鼻が利く。
会社から帰宅するたび迎えに来た玄関口でくんくんとたっぷりニオイチェックされ、ようやく家の中に上がらせてもらえる。
『こう見えて』の犬なので、若い男子ふたりに全身くんくんされている最中の航としては、とにかくこんな現場に誰も入って来ませんように突然玄関が開いたりしませんように、と祈る気持ちでリクとカイに好きにさせている。
往々にしてやましいことなどひとつもないのですぐに開放され、室内に上げてもらえるのだが、この日のチェックは妙に念入りだった。
「まだですか」
うんざりして航がぼやくと、リクが非難がましく呟いた。
「他の犬のニオイがする……」
「は?」
覚えがないので航はあっけにとられる。
「ドッグランでは嗅いだことないニオイだよ。……どこの犬?」
カイの声は明らかに責めている。航は焦った。
「いやいやいや、待てよ、なんだよその言い方。浮気を見つけた彼女みたいじゃねーか、なんなんだよ、違うよ、なんだよその目は!なんだ、ばか、違うよ!」
「誰?どこの子?」
「なんでそいつのニオイが付いてんの?」
しどろもどろになる航とは反対に、リクとカイは表面上はとても冷静に詰め寄ってくる。むしろその冷静さが怖いくらいに。後退りながらも航ははたと思い出す。
「あれだ!昼にチャウチャウ抱っこしたから!いや、でもあれだよ、ちゃんと理由があるんだよ。公園でさ、溝に落ちて上がれなくなったのを助けただけなんだよ。助けるのは別に悪くないでしょ?正当な抱っこの理由でしょ?」
なんでそんなに焦らなければいけないのかと思いつつ、航は早口でまくし立てる。
「……前にもそのチャウチャウ、抱っこしてただろ」
恨みがましい目でリクが言う。
「なんだ、知ってんじゃん」
2回目だからいいだろうという航の態度は間違いだった。
「……待ち合わせしてたんだ」
「おい、待て、どうしてそういう発想になる。相手は犬だぞ」
「飼い主さんはどんな人?」
「若い女の人だよ、なんだよ」
「はーん」
リクとカイがさもありなんという目で航を見る。
航はため息をつくと人差し指で交互にリクとカイを指した。
「おまえらね、よくないよ、そういう考え方。すぐそっちにつなげて考えるのはホントよくない。ダメよ?」
「じゃ、やっぱりチャウチャウ目当てなんだ」
「ちがうって言ってるだろ!公園でメシ食ってたらたまたま会ったの!で、溝に落ちたのを助けたの!てか汚れたスーツクリーニングに出して着替えてきたのに、なんでわかったんだよ!」
「シャツから匂うよ」
「ネクタイからも」
「ベルトも」
「時計も」
「靴も」
「髪も」
「え?え?え?」
航は慌てて自分の身体を嗅ぎ始めた。靴もバッグも時計も嗅ぐ。
「マジで?」
跪いたまま航が見上げると、リクがカイの肩に肘を預けて言った。
「見くびるなよ」
「おれたち犬だぜ?」
ふたりは親指を立てた。




