表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬が兄弟になりまして  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/64

犬が兄弟になりまして・41


 朝、航が実家に行くぞと言ったら、おやつを持って行きたいとリクとカイが答えた。

 レンジにかけすぎて干からびた鶏むね肉も市販のジャーキーの買い置きも無かったので、途中のホームセンターで買っていくことにした。

 ところで最近の航にとって鬼門がある。ペットショップと動物園。犬猫がヒトに見えるようになった航にとって、ペットショップのショーケースの中に入れられた犬猫がヒトに見えたら間違いなく発狂案件である。さらに言うなら今のところ犬猫のヒト化は確認しているが、その他の動物がどこからどこまでヒトに見えるのか全くの未知なのである。ペットショップのショーケースもアレなら、動物園の檻なんて吉原の女郎屋である。ライオンや象が見物客を気怠い感じで流し見するのだ。居心地悪いにもほどがある。てかヒト化した象なんて何キロあるんだよ。ヒトの見た目で4トンぐらいあるのか。詐欺じゃん。ちなみに公園の鳩・スズメ・カラスはヒトにはみえなかったのでセーフである。飛ぶからか?飛ぶヤツはさすがにヒト化は無理だったのか俺の脳。見えないなら見えないで、ちょっと飛ぶヒト見てみたかった感を出してみる航である。電線にぎっしり止まってるヒトとか。

 そんなこんなでペットショップが入っているホームセンターなどはまったく寄り付かないことにしているのだが、この先ホームセンターはここしかない。仕方ないのでペットショップを避けてペット用品売り場に行くことにした。難しいけどできないことはない。

 リクとカイには車の中で待っておけと言ったが、「ここ、お父さんとお母さんと一緒に買い物来たことがある……」などと切ない顔をするので、根負けして連れて入った。

 ふと、来たことあるならここのペットショップ出身ではないかと訊いてみたが、おやつとごはんとおもちゃしか買ってもらったことないと言った。買ってもらったことはよく覚えているらしい。

 ペットは店内ではカートに乗せなければいけなかったので、デカいふたりをカートに乗せて店の中をうろつく羽目になった。

 通りすがる人にしてみれば、大型犬が2頭もカートに乗っている姿が面白くて笑っているのであろうが、航にしてみればこちらを向いてカートに鎮座しているのは成人男子ふたりである。あっち向いて座れ!と言っても、平気で航の方を見て座っている。誰にも分らないところで、航は大層居た堪れなかった。

 そして「おやつは300円以内な」と戒めていたにも関わらず、まんまと800円もする鹿の干し肉とやらを買わされた。

 「ひとり300円だろ?」などと生意気なことをリクがぬかすが、「超えてるんだよ」ととりあえず干し肉は取り上げて、3時までおあずけにした。



 航の実家は都心からだいぶ離れた県境の田舎にある。それなりに人の住む集落で、ほとんどの人が専業か兼業の農家だ。航の祖父母は専業農家だったが、外で安定した仕事を得た両親に譲る前に廃農してしまった。

 葬儀が終わってすぐに実家の冷蔵庫の中は片づけていた。使えそうなものは持って帰ったが、よくわからない調味料などは捨てた。

 テーブルの上にあったのであろうパンや果物はリクとカイが食べたり齧ったりしていたし、戸棚の中の乾麺類は持ち帰ったが、使い方がわからない小麦粉類は捨てた。

 室内もリクとカイの後始末をしたときに綺麗にしたつもりだったが、人が住まない家でもそれなりに埃が積もるのだなと航は思った。

 電気と水道は今も止めていないので使える。航はリクとカイに「外に出るなよ」と言いおいて家中の窓を開けると、軽く掃除機をかけ始めた。

 リクとカイは座敷に行ったり寝室に行ったり2階に行ったりと家中うろついていたが、結局庭に出て嗅ぎまわっていた。


 税金を思えば相続の放棄も考えたが、結局手元に残してしまった。とはいえ片付けが済めば心残りもなくなるだろうと思っている。ただ片付けも、何回通えば終わるのか皆目見当がつかない。本当に片づける気あるのかなと自問自答しつつ、今日の課題、リクとカイがこの家に来たきっかけを航は探すことにした。


 両親は本を読む人たちだったので、リビングにもわりと大きめの本棚があった。自分が興味のないジャンルの本などさっさと捨てられそうなものだが、やはり母が後生大事にしていた『花の24年組』の背表紙などみつけると、申し訳なくてなかなか手放せない。それはともかくつらつらと背表紙を眺めてみるが、別に日記帳っぽいものもない。今どき本の背表紙みたいな立派な日記帳使ってる人もそういないか、と思い直して、引き出しの中などを探ってみるが、それらしいノートも見当たらない。

 そして思い出す。リクとカイはアポロの写真をパソコンで見たと言っていた。

 航はデスクトップのパソコンを立ち上げる。そして一瞬パスワードに悩む。

 実は両親のスマホを見ようとしたとき、パスワードが解除できなかった。両親の誕生日でも名前でも、航の誕生日でも名前でも開かなかった。

 実家のパソコンは航の名前と誕生日で設定してあったはずだが、あの頃とパソコンも変わっている。

 だが、両親の愛を信じて、航は自分の名前と誕生日で入れてみた。

 開いた。

 ありがとう!お父さんお母さん!愛してます!

 航は天を仰いだ。

 写真フォルダを見てもどこを見ても、リクとカイに関することは今のところ何も記録がみつからない。時間をかけて調べるためにパソコンを持って帰るべきかと考えていたときに、リクが外から家の中へ駈け込んできた。

「お兄ちゃん!」

「おー、びっくりした。なに」

「なんかいる」

「え?」

 航の実家の裏手はすぐ山になっている。そういや何年か前にウリ坊が庭に来たと母がはしゃいでいた。嘘だろと青くなりながら外に出ると、カイがじっと裏の森を睨んでいた。

 航はごくりと息を呑んだ。


 ヒトに見えたら、どうしよう……。


 ヒトに見えるイノシシでもイノシシのままのイノシシでも、勝てる自信が航には無かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ