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会いたい理由



 翌朝。


 セリアは少し早く目を覚ました。


 身支度を整えながら考える。


 昨日のことを。


 青い耳飾り。


 ユリアが首から下げていたもの。


 あれを見た瞬間。


 頭痛がした。


 知らない記憶が流れ込んできた。


 そして。


 どうしても気になっている。


「もう一度見たら……」


 何か思い出せるだろうか。


 答えは分からない。


 だが。


 確かめたい。


 そう思った。




 神殿へ着く。


 門番が苦笑した。


「また来たのか」


「また来ました」


 いつものやり取り。


 セリアは中庭へ向かう。


 そして。


「あれ?」


 足を止めた。


 ユリアがいない。


 いつもいる場所に。


 いなかった。


 少しだけ胸が沈む。


「セリアさん」


 振り返る。


 リシュリーだった。


「こんにちは」


「こんにちは」


 優しい笑顔。


 セリアも頭を下げる。


「ユリアさんを探していますか?」


 思わず固まった。


「えっと……」


「違います?」


 違わない。


 いや。


 本当は耳飾りを見たかったのだ。


 そう。


 そのはずだった。


 なのに。


 ユリアがいないことへ先にがっかりしている。


 自分でも少し不思議だった。


「護衛任務ですよ」


 リシュリーが教えてくれる。


「夕方には戻ると思います」


「そうなんですね」


 少し安心する。


 その反応を見て。


 リシュリーは微笑んだ。


「待つんですか?」


「待ちます」


 即答だった。


 自分でも驚くくらい自然に。



 午後。


 神殿の食堂。


 顔見知りの神官達と雑談していた。


「また来たのか」


「来ました」


「もう神殿に住め」


「部屋ください」


「断る」


 笑いが起こる。


 その時。


「そういえば」


 若い神官が言った。


「ユリア殿も変わったよな」


 セリアの耳が反応する。


「変わったんですか?」


「変わった」


 全員が頷く。


「昔はもっと怖かった」


「今も怖いです」


「今はだいぶ優しい」


 セリアは少し驚いた。


 今のユリアしか知らない。


「誰とも話さなかったしな」


「近寄り難かった」


「今はセリアさんと普通に話してる」


 視線が集まる。


 少し恥ずかしい。


「そうなんですか」


「かなり特別だと思うぞ」


 胸が少し熱くなる。


 特別。


 その言葉が妙に嬉しかった。


 気付けば。


 耳飾りのことを考えていなかった。


 頭の中は。


 いつの間にかユリアの話ばかりになっていた。




 夕方。


 ユリアが神殿へ戻ってきた。


 遠くからでもすぐ分かる。


 人混みの中でも見付けられる。


「おかえりなさい」


「何故いる」


「待ってました」




 ユリアは呆れたように息を吐く。


 だが追い返さない。


 二人で中庭を歩く。


 いつものように。


 何でもない話をする。


 村の話。


 神殿の話。


 天気の話。


 それだけなのに楽しい。


「ユリアさん」


「何だ」


「私って特別ですか?」


 ユリアが立ち止まる。


 少しだけ眉をひそめた。


「何だ急に」


「気になったので」


 本当は。


 神官達の言葉が気になっていた。


 ユリアは少し考える。


 そして。


「そうだな」


 短く答えた。


 心臓が跳ねる。


「え」


「変な奴だからな」


「それ褒めてます?」


「褒めてない」


「ひどいです」


 むくれる。


 その瞬間。


 ユリアが少しだけ笑った。


 本当に少しだけ。


 けれど。


 確かに。


 笑った。


 胸が苦しくなる。


 息が止まりそうになる。


 嬉しい。


 どうしようもなく。


 嬉しい。


 その顔を見ているだけで。


◇◇◇


 帰宅後。


 自室。


 ベッドへ寝転ぶ。


 天井を見上げる。


 そして今日一日を思い返す。


 そこでようやく気付いた。


「あ……」


 朝。


 神殿へ行った理由。


 何だっただろう。


 考える。


 すぐに思い出した。


 青い耳飾りだ。


 あれを見たかった。


 何か思い出せそうだったから。


 そのはずだった。


 なのに。


 会ってからは。


 全部忘れていた。


 ユリアがいないと聞いて残念だった。


 ユリアの話を聞いて嬉しかった。


 ユリアが帰ってきて安心した。


 ユリアが笑ってくれて幸せだった。


 気付けば。


 頭の中はユリアばかりだった。


「……うそ」


 胸が熱い。


 顔も熱い。


 分かってしまった。


 自分の気持ちを。


 耳飾りが気になったのは本当だ。


 でも。


 それ以上に。


 会いたかった。


 ユリアに。


 話したかった。


 隣にいたかった。


 笑ってほしかった。


 それはもう。


 友達に向ける気持ちではない。


「私……」


 小さく呟く。


 誰もいない部屋で。


 頬を押さえながら。




 ユリアさんが好きなんだ。




 その答えに辿り着いた瞬間。


 胸の鼓動がさらに速くなった。


 そして。


 セリアはまだ知らない。


 恋をした相手が、自分よりずっと長い時間を生きていることを。


 

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