共有された違和感
翌日。
神殿の訓練場。
ユリアは木剣を振っていた。
一振り。
二振り。
三振り。
身体は動く。
だが集中できない。
頭の中に浮かぶのは昨日のことばかりだった。
青い耳飾りを見た瞬間。
苦しそうに頭を押さえたセリア。
そして。
『知ってる気がするんです』
あの言葉。
「ユリア殿」
声が掛かる。
振り返ると神官長が立っていた。
「少しお時間を頂けますか」
◇◇◇
神官長室。
扉が閉まる。
向かい合って座る。
しばらく沈黙が続いた。
先に口を開いたのは神官長だった。
「セリアさんのことです」
ユリアは黙って頷く。
「地下通路での出来事ですが」
国心環から戻る途中の話だ。
神官長は真っ直ぐユリアを見る。
「何か見えましたか」
ユリアは少し考えた。
隠す理由はない。
神官長はセレスのことを知っている。
共に見送った相手だ。
「……少しだけだ」
ユリアは答える。
「白い光のようなものが見えた」
「消えましたか」
「ああ」
神官長は静かに目を閉じた。
やはり。
そうだった。
「何か知っているな」
ユリアが言う。
神官長は少し迷った。
だが。
隠し続ける意味もない。
「国心環の蓄積量が減りました」
ユリアの眉が動く。
「どれくらいだ」
「十です」
短い沈黙。
そして。
「……十?」
ユリアが聞き返す。
神官長は頷いた。
「十五から五へ」
部屋が静まり返る。
ユリアも異常性は理解できた。
リシュリーの浄化では説明できない。
そんな数字だ。
「セリアが来た後か」
「はい」
神官長は答える。
「もちろん断定はできません」
「だが疑っている」
「ええ」
神官長は認めた。
他に説明が付かない。
少なくとも今は。
ユリアは腕を組む。
考える。
そして。
自然と一人の少女を思い出した。
セレス。
だが。
すぐに首を振った。
違う。
同じではない。
「神官長」
「はい」
「セレスは違った」
神官長は黙って聞いている。
「十五の頃は普通だった」
「ああ」
神官長も頷いた。
二人とも知っている。
十五歳のセレスを。
聖女候補だった頃を。
接続すれば糸が見える。
それだけだった。
歴代聖女と同じ。
特別ではない。
「常時見えるようになったのは最後だ」
ユリアが続ける。
「白い糸に触れるようになったのも」
「その通りです」
神官長は静かに答えた。
だからおかしい。
セリアは十五歳。
聖女ですらない。
なのに。
見えている。
触れている。
「前例は」
ユリアが聞く。
「ありません」
神官長は即答した。
「少なくとも私は知りません」
沈黙。
二人とも同じ場所へ辿り着く。
分からない。
本当に分からない。
「……普通じゃないな」
ユリアが呟く。
神官長も頷いた。
「ええ」
そして。
少しだけ表情を緩めた。
「ですが」
ユリアが顔を上げる。
「今のところ元気です」
その言葉に。
ユリアは黙った。
頭痛はあった。
だが一時的だった。
腕も腫れていない。
胸を押さえることもない。
手袋もしていない。
普通に笑う。
普通に食べる。
普通に走る。
少なくとも。
セレスの最期とは違う。
「……そうだな」
小さく答える。
それだけだった。
だが。
神官長には分かった。
ユリアが何を恐れているのか。
自分も同じだから。
知りたいのではない。
セリアの正体を。
確かめたいのだ。
セリアがセレスと同じ道を歩まないことを。
ただそれだけを。
◇◇◇
その頃。
中庭では。
何も知らないセリアが神殿へ向かっていた。
昨日の頭痛はほとんど消えている。
ただ。
胸の奥に残る違和感だけは消えなかった。
青い耳飾り。
あの青色。
思い出せそうで思い出せない何か。
「……」
セリアは無意識に胸元を押さえる。
理由は分からない。
けれど。
あの耳飾りをもう一度見たいと思っていた。
何かが分かる気がしたから。




