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初めまして



 しばらく。


 二人は見つめ合ったままだった。


 春風が吹く。


 桜の花びらが舞う。


 中庭は静かなのに。


 セリアの胸だけが騒がしかった。


 白い糸。


 目の前の女性。


 懐かしさ。


 全部が意味不明だった。


「……何だ」


 先に口を開いたのはユリアだった。


 低い声。


 だが威圧感はない。


 セリアは我に返る。


「あっ」


 慌てて頭を下げた。


「ご、ごめんなさい」


 変な子だと思われたかもしれない。


 そう考えると恥ずかしくなった。


「別に構わん」


 ユリアは短く答える。


 そして。


「迷子か」


 真面目に聞いてきた。


 セリアは少しだけ笑う。


「違います」


「そうか」


 会話終了。


 本当に終了した。


 ユリアは興味がなさそうだった。


 セリアは逆に困る。


 普通ならここで終わる。


 終わるはずなのに。


 足が動かない。


 離れたくない。


 理由もなく。


 そんな気持ちが湧いていた。


 ユリアも不思議だった。


 少女を見ていると。


 妙に落ち着かない。


 懐かしいような。


 胸が締め付けられるような。


 嫌な感覚ではない。


 ただ。


 説明できない。


「名前は」


 気付けば聞いていた。


 自分でも驚く。


 普段なら聞かない。


 聞く理由もない。


「セリアです」


 少女は嬉しそうに答えた。


「ユリアだ」


 セリアが固まる。


「え?」


「ユリア」


 繰り返す。


 セリアは何故か胸を押さえた。


 心臓が大きく跳ねる。


 初めて聞く名前のはずだった。


 なのに。


 聞いたことがある気がする。


 ずっと昔に。


 どこかで。


「どうした」


「いえ」


 首を振る。


 変なことは言えない。


 自分でも意味が分からないから。


 その時だった。


「ユリア殿」


 神官が呼びに来る。


「神官長がお呼びです」


「分かった」


 ユリアは立ち上がった。


 それだけだった。


 挨拶もない。


 別れの言葉もない。


 歩き出す。


「あ」


 セリアは思わず声を上げた。


 ユリアが振り返る。


「何だ」


 言葉が出ない。


 引き止めたかった。


 でも理由がない。


 だから。


「また会えますか」


 自分でも驚く質問だった。


 ユリアも少し驚いた顔をする。


 そして。


「神殿にいる」


 そう答えた。


 それだけ。


 それだけなのに。


 セリアは少し嬉しくなる。


 ユリアは去っていく。


 その背中を見送る。


 見えた。


 白い糸。


 ユリアの胸から伸びる一本の糸。


 どこか遠くへ繋がっている。


 誰かを待っているみたいに。


 切れていない。


 不思議だった。


 普通の糸とは違う。


 それを見ていると。


 胸の奥が痛くなる。


「何なんだろう……」


 小さく呟く。


 答えはない。


 一方。


 神官長室へ向かうユリアも考えていた。


 セリア。


 初対面の少女。


 それだけだ。


 それだけのはず。


 なのに。


 名前を聞いただけで。


 妙に胸が温かくなった。


 あの日以来。


 ずっと動かなかった何かが。


 ほんの少しだけ。


 揺れた気がした。


 服の下。


 青い耳飾りが微かに揺れる。


 ユリアは気付かない。


 まだ。


 本当にまだ。


 その変化の意味を知らなかった。


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