変わるもの
さらに三年が過ぎた。
セレスが亡くなってから八年。
リシュリーは二十四歳になっていた。
聖女として名も知られている。
巡礼先では子供達に囲まれることも増えた。
神殿へ届く感謝の手紙も多い。
立派な聖女だった。
少なくとも周囲はそう思っている。
神官長も老いた。
白髪は増えた。
目尻の皺も深くなった。
階段を上る時には昔よりゆっくりになった。
それでも現役だった。
まだ神殿を支えている。
そして。
ユリアも神殿にいた。
昔と同じように。
護衛として。
剣士として。
当たり前のように。
その日。
神殿では小さな祝い事が開かれていた。
長年勤めた神官が引退するのだ。
簡素な食事会。
大げさなものではない。
それでも皆楽しそうだった。
「神官長も年を取りましたな」
誰かが笑う。
「本当ですよ」
別の神官も笑う。
「昔はもっと怖かったんですから」
「今でも怖いですよ」
笑い声が広がる。
神官長も苦笑していた。
昔なら考えられない光景だった。
年齢を重ねたからこその柔らかさがある。
ユリアは少し離れた場所でそれを見ていた。
賑やかな場所は得意ではない。
だから端の席にいる。
「ユリア殿」
引退する神官が声を掛けてきた。
「何だ」
「あなたも変わりませんな」
笑いながら言う。
「初めて会った頃と同じです」
周囲も頷いた。
「確かに」
「昔からそのままだ」
「羨ましいですね」
冗談だった。
誰も深く考えていない。
だから皆笑っていた。
ユリアも軽く流す。
「そうか」
ただそれだけ。
その時は。
特に何も思わなかった。
夜。
食事会が終わる。
神殿の廊下を一人で歩いていた。
窓ガラスに自分の姿が映る。
何気なく見る。
昔から見慣れた顔。
特に変わりはない。
そう思った。
そこで。
ふと。
昔の記憶が蘇る。
セレスと祭りへ行った日。
神殿へ来たばかりの頃。
護衛になった頃。
頭の中の自分と。
窓に映る自分が。
同じだった。
「……」
立ち止まる。
しばらく窓を見つめる。
だが。
すぐに首を振った。
考えすぎだ。
八年程度で大きく変わるわけではない。
そう結論付ける。
そして歩き出した。
だから。
まだ気付かない。
本当におかしいことに。
一方。
リシュリーは国心環の間にいた。
接続を終えたばかりだった。
「……?」
小さく眉をひそめる。
ほんの少し。
違和感があった。
痛みではない。
苦しさでもない。
ただ。
以前より重い。
そんな感覚。
接続を終えれば消える程度のものだ。
だから気にしなかった。
気にするほどではない。
まだ。
本当にまだ。
小さな変化だった。
国心環は静かに輝いている。
八年前より少しだけ。
ほんの少しだけ。
白い糸を溜め込みながら。
誰にも気付かれないまま。




