5年後
五年の歳月が流れた。
季節は何度も巡った。
春が来て。
夏が来て。
秋が来て。
冬が来る。
それを五回。
繰り返した。
神殿も少しずつ変わった。
新しい神官が増えた。
見習いだった者が一人前になった。
退職した者もいる。
神官長の髪にも白いものが混じり始めていた。
そして。
リシュリーは二十一歳になっていた。
聖女としての仕事にも慣れている。
巡礼もこなす。
神殿内の信頼も厚い。
もう誰も新人聖女とは呼ばなかった。
「聖女様」
若い神官が駆け寄ってくる。
「次の巡礼先ですが」
「はい」
リシュリーは微笑む。
穏やかな笑顔だった。
五年前より大人になっている。
背も少し伸びた。
表情も落ち着いた。
セレスとは違う。
けれど。
立派な聖女だった。
その日の夕方。
リシュリーは神殿の中庭を歩いていた。
そこで一人の女性を見つける。
剣を手入れしている。
見慣れた姿。
「ユリアさん」
呼ぶ。
ユリアが顔を上げた。
「ああ」
短い返事。
昔と変わらない。
本当に。
何も変わらない。
リシュリーは隣へ座る。
「今日も護衛お疲れ様でした」
「お前もな」
少しだけ笑う。
五年前なら考えられない。
今ではこうして話せる。
それなりに長い付き合いになった。
「神官長が探していましたよ」
「後で行く」
「怒られますよ」
「その時はその時だ」
思わずリシュリーが笑う。
そのやり取りを見て。
ふと考える。
セレスも。
こんな風に話していたのだろうか。
少しだけ。
羨ましくなる。
「どうした」
ユリアが尋ねる。
「いえ」
リシュリーは首を横に振った。
「セレス様を思い出していました」
ユリアの手が止まる。
ほんの一瞬。
それだけ。
けれどリシュリーは見逃さなかった。
「すみません」
「別にいい」
ユリアはそう答える。
それ以上は何も言わない。
五年経っても。
その名前は特別だった。
リシュリーは空を見上げる。
夕日が綺麗だった。
セレスが亡くなった日のような色。
少しだけ胸が痛む。
だが。
国心環は安定している。
巡礼も順調だ。
神殿も平和だった。
聖女としては喜ぶべきこと。
それなのに。
時々思う。
どうしてセレス様亡くなったのだろう。
過労。
そう聞いている。
でも。
あまりにも早すぎた。
優秀だった人ほど。
早くいなくなる。
そんな気がしていた。
遠くで鐘が鳴る。
夕刻を知らせる音。
リシュリーは立ち上がった。
「では行ってきます」
「ああ」
去っていく背中を見送る。
ユリアは再び剣へ視線を落とした。
そして無意識に胸元へ触れる。
服の下。
首から下げた青い耳飾り。
五年経った今も。
そこにあった。
色褪せることなく。
ずっと。
ユリアと共に。
夕日が沈む。
五年という時間は短くない。
人は変わる。
景色も変わる。
けれど。
変わらないものもあった。
少なくとも。
ユリア自身はそう思っていた。
まだ。
気付いていなかった。
自分だけが五年前と何も変わっていないことに。




