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新しい日々



 セレスの葬儀から一年が過ぎた。


 神殿は静かだった。


 悲しみが消えたわけではない。


 けれど人は生きていく。


 聖女がいなくなっても。


 季節は巡る。


 朝は来る。


 国も動き続ける。


 リシュリーもまた、その流れの中にいた。


 十七歳。


 正式に聖女となって一年。


 まだ未熟だと思うことは多い。


 それでも仕事は待ってくれない。


 今日も国心環の間にいた。


 一人で。


 巨大な白い環を見上げる。


 今でも少し緊張する。


 セレスもここに立っていた。


 そう思うと背筋が伸びた。


 リシュリーはゆっくり手を伸ばす。


 国心環へ触れる。


 接続。


 祈り。


 浄化。


 聖女として当然の仕事。


 そう教わった。


 しばらくして接続を終える。


 国心環から手を離した。


「……終わり?」


 思わず呟く。


 神官が近付いてくる。


「お疲れ様でした、聖女様」


「あ、はい」


 リシュリーは戸惑っていた。


 もっと何かあると思っていた。


 もっと大変で。


 もっと苦しくて。


 もっと特別なものだと。


 勝手に思っていた。


 その日の夕方。


 神官長室。


 報告を終えたリシュリーは首を傾げた。


「神官長」


「何でしょう」


「これで終わりですか?」


 神官長の手が止まる。


 ほんの一瞬だけ。


「終わりとは?」


「国心環です」


 リシュリーは少し言いにくそうに続ける。


「もっと大変だと思っていました」


 神官長は黙って聞いている。


「もちろん緊張はします」


「でも」


 言葉を探す。


「思っていたより普通でした」


 部屋が静かになる。


 神官長は視線を落とした。


 書類の上へ。


 誰にも気付かれないように。


「そうですか」


 短い返事だった。


 リシュリーは少し笑う。


「先代聖女様は本当に凄い方だったんですね」


 神官長は答えない。


 答えられなかった。


 リシュリーは知らない。


 セレスが何をしていたのか。


 どれほどの負荷を受けていたのか。


 どれほどの痛みに耐えていたのか。


 知らない。


 だから。


 ただ尊敬している。


 神官長は静かに目を閉じた。


「そうですね」


 やがて答える。


「凄い方でした」


 それだけだった。


 嘘ではない。


 だが。


 本当のことを全て話したわけでもない。


 リシュリーは満足そうに頷く。


 神官長室を後にした。


 一人になる。


 窓の外を見る。


 夕日が沈み始めていた。


 昔。


 セレスがよく見ていた景色だった。


 神官長は小さく息を吐く。


 国心環は穏やかだ。


 静かだ。


 何年も見たことがないほど。


 それは決して偶然ではない。


 あの日。


 セレスが全てを持っていったからだ。


 一方その頃。


 ユリアは神殿の外壁に腰掛けていた。


 空を見上げる。


 赤い夕焼け。


 一年前と同じ色だった。


 胸元へ手を伸ばす。


 服の下。


 首から下げた青い耳飾りに触れる。


 もう癖になっていた。


 考えない日はない。


 思い出さない日はない。


 それでも。


 前を向いて生きるしかない。


 セレスならそう言う。


 だから。


 今日も生きている。


 ただそれだけだった。


 まだ誰も気付いていない。


 神官長も。


 リシュリーも。


 そしてユリア自身も。


 あの日から。


 ユリアだけが少しも変わっていないことに。


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