セレスの青い耳飾り
葬儀は静かに執り行われた。
聖女セレス。
十八歳。
死因は過労による衰弱。
そう発表された。
神殿の者たちは涙した。
巡礼の延期。
体調不良。
最近の疲労。
思い当たることはいくらでもあった。
だから誰も疑わなかった。
リシュリーも同じだった。
泣いていた。
何度も。
何度も。
もっと話したかった。
もっと教わりたかった。
そんな言葉を繰り返していた。
ユリアは何も言わなかった。
泣かなかった。
ただ。
棺が閉じられるまで。
ずっと傍にいた。
それだけだった。
そして。
全てが終わった。
夜。
誰もいない聖女の私室。
ユリアは一人でそこにいた。
神官長が許可したのだ。
遺品整理。
本来なら神殿が行う。
だが神官長は何も言わなかった。
ただ鍵を渡した。
それだけだった。
部屋は静かだった。
昨日まで。
確かにセレスがいた場所。
本。
机。
椅子。
花瓶。
何も変わっていない。
なのに。
本人だけがいない。
ユリアは机へ近付く。
引き出しを開ける。
巡礼記録。
報告書。
途中まで書かれたメモ。
全部。
セレスの字だった。
胸が苦しい。
けれど。
涙は出なかった。
現実感がなかった。
本当に死んだのか。
まだ分からなかった。
机の奥に小箱があった。
見覚えがある。
セレスが時々大事そうに触れていた箱だ。
ユリアはそっと蓋を開く。
中には青い耳飾りが入っていた。
「……」
呼吸が止まる。
聖女になった頃から。
ずっと身につけていた耳飾り。
巡礼の時も。
祭りの日も。
何気ない日も。
いつも。
いつも。
セレスと一緒だった。
ユリアは耳飾りを手に取る。
冷たかった。
もう。
持ち主の温もりは残っていない。
その時だった。
不意に声を思い出す。
『ユリア』
楽しそうな声。
『来年も行こうね』
祭りの日だった。
屋台の灯り。
笑うセレス。
『人が多い』
そう答えた。
『だから楽しいんじゃない』
セレスは笑った。
『来年も一緒だよ』
当たり前みたいに。
未来の話をした。
ユリアの指が震える。
耳飾りを握り締める。
駄目だった。
そこで。
全部壊れた。
「……っ」
息が漏れる。
視界が滲む。
涙が落ちる。
一滴。
また一滴。
止まらない。
今まで我慢していたものが全部溢れた。
セレスはもういない。
本当に。
もういない。
耳飾りを胸へ抱き寄せる。
まるで。
セレスを抱き締めるみたいに。
「来年も……」
声が震える。
涙が止まらない。
「来年も祭りに行くって言ったじゃねぇか……」
誰も答えない。
部屋は静かだった。
セレスの声はもう聞こえない。
それでも。
耳飾りだけは残っていた。
ユリアは泣き続けた。
夜が明けるまで。
一人で。
ずっと。
ずっと。
泣き続けた。
その胸の奥には。
誰にも見えない一本の白い糸が残っていた。




