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残された時間


 翌日。


 神官長はセレスを記録室へ呼んだ。


 ユリアも一緒だった。


 机の上には大量の資料が並んでいる。


 接続記録。


 巡礼記録。


 歴代聖女の活動記録。


 そして国心環の観測記録。


 神官長はその中の一冊を開いた。


「見てください」


 セレスは資料を覗き込む。


 数字が並んでいた。


 年代ごとに整理されている。


「これは?」


「国心環の蓄積記録です」


 神官長が答えた。


 セレスは眉をひそめる。


 そんな記録があったことは知っている。


 だが詳しく見たことはなかった。


「国心環には限界があります」


 神官長は続ける。


「仮に百を上限とするなら」


 紙の上を指でなぞる。


「初代聖女の時代は六十前後でした」


 セレスは目を見開く。


 思ったより高い。


「そして歴代聖女が浄化を続ける」


「ですが」


 神官長の声が低くなる。


「完全には消えない」


 紙の数字を追う。


 六十。


 五十八。


 六十二。


 五十五。


 六十七。


 上下を繰り返している。


「少し減る」


「また増える」


「また減る」


「また増える」


 神官長は静かに言った。


「そうやって何百年も続いてきました」


 セレスは資料をめくる。


 数字が変わる。


 七十。


 七十五。


 八十。


 八十四。


 八十八。


 そして。


 最近の記録。


 九十二。


 九十四。


 九十六。


 九十七。


 そこから先は空欄だった。


「神官長」


 セレスが顔を上げる。


「今は」


 神官長は答えた。


「九十八です」


 部屋が静まり返った。


 ユリアも何も言わない。


 九十八。


 あと二つ。


 それだけだった。


「そんなに……」


 セレスは呟く。


 神官長は頷いた。


「巡礼延期」


「接続回数減少」


「白い糸の増加」


 資料を閉じる。


「全て辻褄が合います」


 セレスは理解する。


 だから最近おかしかった。


 だから白い糸が増えた。


 だから自分に見えた。


 国心環そのものが限界だったのだ。


「接続すれば減りますか」


 静かに尋ねる。


 神官長は沈黙した。


 その沈黙が答えだった。


「減ります」


 やがて言う。


「大きく」


 セレスは目を閉じた。


 予想通りだった。


「ですが」


 神官長の声が震える。


「あなたは確実に悪化します」


 胸の痛み。


 赤い痕。


 初代聖女。


 十九歳。


 全部が繋がる。


 ユリアが立ち上がった。


「却下だ」


 短かった。


「ユリア」


「却下だ」


 繰り返す。


 怒っていた。


 今までで一番。


「国心環がどうなろうが知らない」


 珍しく感情を隠さない。


「オレはお前に生きてほしい」


 セレスは俯く。


 何も言えない。


 言えば傷付ける。


 分かっている。


 神官長も目を閉じた。


 誰も間違っていない。


 だから苦しい。


「聖女様」


 神官長が言う。


「今すぐ接続をやめれば、生き延びる可能性があります」


 部屋が静かになる。


 セレスは顔を上げた。


「可能性」


「はい」


「では」


 セレスは尋ねる。


「国心環はどうなりますか」


 神官長は答えなかった。


 答えられなかった。


 その沈黙だけで十分だった。


 セレスは小さく笑う。


 悲しい笑顔だった。


 そして。


 誰も続きを言わなかった。


 言わなくても。


 三人とも同じ答えを知っていたから。



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