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19歳



 翌朝。


 神官長はセレスとユリアを呼び出した。


 机の上には古い資料が積まれている。


 神官長の顔色は良くなかった。


 昨夜、一睡もしていないのかもしれない。


 部屋へ入った瞬間。


 セレスは何となく理解した。


 良い話ではない。


 それだけは分かった。


「見つかったんですね」


 セレスが言う。


 神官長は静かに頷いた。


「はい」


 その声は重かった。


 机の上から一枚の資料を取り出す。


「初代聖女の記録です」


 セレスは息を呑む。


 ユリアも黙っている。


 神官長は資料へ視線を落とした。


「願いを浄める」


「人の苦しみを受け取る」


「接続前の負荷へ干渉する」


 そこまでは予想通りだった。


 今のセレスと似ている。


 問題はその先だった。


「症状の記録も残っていました」


 神官長が言う。


「胸痛」


「腕の痕」


「疲労の蓄積」


 セレスの視線が自分の手首へ落ちる。


 無意識だった。


 手袋の下。


 隠している赤い線。


 神官長は続ける。


「本人は隠したそうです」


 セレスは苦笑した。


 少しだけ。


 笑えない話だった。


 ユリアは笑わない。


 最初から。


 ずっと。


「そして」


 神官長の声が低くなる。


 部屋の空気が変わった。


 セレスもそれを感じた。


 聞きたくない。


 でも聞かなければならない。


 そんな空気だった。


「初代聖女は十九歳で亡くなっています」


 静寂。


 何も聞こえなかった。


 十九歳。


 その数字だけが頭に残る。


 十九歳。


 あと一年。


 いや。


 本当に一年あるのだろうか。


 セレスは何も言えない。


 言葉が出てこない。


 神官長はさらに資料を差し出した。


「こちらも見てください」


 古い文字だった。


 読みづらい。


 それでも読めた。


『もっと生きたかった』


 短い一文だった。


 セレスの呼吸が止まる。


『もっと人を助けたかった』


『もっと巡礼へ行きたかった』


 ページをめくる。


『愛する人を残して逝くことが心残りだった』


 そこで読むのをやめた。


 読めなかった。


 指先が震えている。


 神官長も何も言わない。


 ユリアも。


 誰も。


 部屋には沈黙だけがあった。


「聖女様」


 神官長が静かに言う。


「まだ同じ結末になると決まったわけではありません」


 慰めだった。


 分かる。


 だが。


 今のセレスには届かなかった。


 十九歳。


 もっと生きたかった。


 愛する人を残した。


 頭の中で言葉が繰り返される。


 まるで。


 未来の自分を見ているようだった。


 気付けば。


 隣のユリアが立ち上がっていた。


「ユリア」


 呼ぶ。


 返事はない。


 ユリアは神官長を見る。


「方法は」


 短い言葉だった。


「助かる方法はないのか」


 神官長は沈黙する。


 その沈黙だけで十分だった。


 答えがないことが分かる。


 ユリアの拳が震える。


 怒りなのか。


 悔しさなのか。


 セレスには分からなかった。


 ただ。


 胸が苦しかった。


 痛みのせいじゃない。


 別の苦しさだった。


 死ぬかもしれない。


 初めて。


 本当にそう思った。


 今まではどこか他人事だった。


 記録の中の話。


 歴代聖女の話。


 でも違う。


 これは自分の話だ。


 自分が。


 ユリアを残して死ぬかもしれない。


 その事実が。


 何よりも怖かった。


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