他人事ではなく
セレスはページをめくった。
記録はまだ続いている。
歴代聖女の報告。
接続記録。
継承資料。
知らないことばかりだった。
国心環への正式接続。
接続年数。
接続負荷。
どれも聖女である自分に関係するはずの内容なのに、初めて見る言葉ばかりだった。
不思議だった。
なぜ今まで気にならなかったのだろう。
なぜ誰も話さなかったのだろう。
ページをめくる。
次。
さらに次。
そして、ある報告書で手が止まった。
『接続負荷増加を確認』
『経過観察』
『本人の希望により接続継続』
セレスは無意識に唇を噛んだ。
似ている。
七十年前の記録にもあった。
第十五代聖女にもあった。
別の時代の聖女にもあった。
同じ言葉が何度も出てくる。
まるで決まった流れのように。
その時だった。
不意に文字が揺れた。
「……?」
セレスは瞬きをする。
疲れ目だろうか。
少し目を擦る。
だが次の瞬間。
視界が白く染まった。
音が消える。
意識が遠のく。
何も見えない。
何も聞こえない。
ほんの数秒。
それだけだった。
「セレス!」
声が聞こえた。
我に返る。
視界が戻る。
机。
本棚。
記録室。
全部見える。
気付けば帳簿が床へ落ちていた。
手から滑り落ちたらしい。
「大丈夫か」
ユリアが立ち上がっていた。
表情が険しい。
「……うん」
反射的に答える。
だが声に力がなかった。
「大丈夫じゃない」
ユリアが即座に言う。
「今、飛んだだろ」
否定できなかった。
数秒。
実際にはそれだけだったのだろう。
けれど体感ではもっと長かった気がする。
「まただね」
セレスが小さく言った。
祈祷中。
街から帰る途中。
そして今。
三度目だった。
偶然にしては出来過ぎている。
自分でも分かっていた。
ユリアは落ちた帳簿を拾い上げる。
机へ戻す。
そして開かれていたページへ視線を落とした。
『接続負荷増加を確認』
そこに書かれていた文字。
ユリアの表情がさらに険しくなる。
「今日は終わりだ」
低い声だった。
「ユリア」
「終わり」
有無を言わせない口調だった。
セレスは反論しかけて、やめた。
今は自分でも少し整理が追いついていない。
正直なところ。
怖かった。
今までは違った。
診察では異常なしだった。
疲れかもしれないと思えた。
気のせいだと言い聞かせることもできた。
だが今は違う。
歴代聖女の記録を読んだ後だった。
接続負荷。
消耗。
衰弱。
そういう言葉を知った後だった。
三度続いた症状。
そして今読んでいた記録。
全部を並べると、一つの可能性が浮かび上がる。
セレスはゆっくり息を吐いた。
「……同じかもしれない」
小さな呟きだった。
「何がだ」
ユリアが聞く。
セレスはすぐには答えなかった。
視線を帳簿へ落とす。
歴代聖女たちが残した記録。
何度も繰り返される言葉。
後継者。
引き継ぎ。
接続負荷。
そして死因。
「私にも」
そこで言葉を切る。
まだ確証はない。
資料を読んだだけだ。
知らないことの方が多い。
それでも。
初めて記録を読んだ時のように、
関係ないとは思えなくなっていた。
「神官長のところへ行く」
ユリアが言う。
セレスは少し黙った後、ゆっくり頷いた。
今は推測しかない。
だからこそ聞かなければならない。
知っている人に。
自分が見落としていることを。
確かめるために。




