共通点
気付けば午後になっていた。
セレスは一冊の帳簿を閉じる。
そしてすぐに次の帳簿を開いた。
何冊目かはもう数えていない。
歴代聖女の記録。
個人報告。
引き継ぎ資料。
読み始めると止まらなかった。
「まだ読むのか」
向かいに座るユリアが言う。
「あと少し」
セレスは答えた。
さっきから何度も同じ返事をしている気がする。
ページをめくる。
別の時代の聖女。
また別の時代の聖女。
生まれも。
性格も。
就任年齢も違う。
共通点などないように見える。
だが。
読み進めるうちに気付いたことがあった。
『後継者教育開始』
『引き継ぎ完了』
『あの子なら大丈夫だ』
似た言葉が何度も出てくる。
時代が違う。
書いた人も違う。
それなのに。
まるで申し合わせたように。
セレスはゆっくり息を吐いた。
そして帳簿を閉じる。
「分かったかも」
小さく呟く。
「何がだ」
ユリアが聞く。
セレスは少し考えてから答えた。
「違和感の正体」
最初は気のせいだと思った。
だが違う。
ここまで続けば偶然ではない。
「歴代聖女って」
言葉を選ぶ。
「みんな後継者のことばかり考えてる」
ユリアは少し首を傾げた。
「おかしいか?」
「おかしくはない」
セレスは首を振る。
聖女にも引き継ぎは必要だ。
後継者育成も大切な仕事である。
「でもね」
セレスは続けた。
「普通の引き継ぎじゃない気がする」
巡礼先で読んだ記録。
第十五代聖女の記録。
他の時代の聖女たちの記録。
共通している。
『時間が足りない』
あの言葉が頭をよぎる。
「みんな急いでる」
セレスが言う。
「急いでる?」
「うん」
引退する人間の書き方ではない。
役目を終える人間の書き方でもない。
もっと切迫している。
もっと焦っている。
そんな印象だった。
「まるで」
そこまで言って。
セレスは言葉を止めた。
「まるで?」
ユリアが続きを促す。
セレスは少し黙る。
そして。
「自分の終わりが分かってるみたい」
そう呟いた。
部屋が静かになる。
ユリアは何も言わなかった。
否定もしない。
肯定もしない。
セレス自身も確信があるわけではない。
ただ。
記録から受けた印象だった。
もしそうなら。
なぜだろう。
どうして歴代聖女たちはそんな記録を残したのだろう。
セレスは立ち上がる。
本棚へ向かう。
ここまで来たら中途半端には終われない。
「どこ行く」
ユリアが聞いた。
「探す」
セレスは即答した。
「何を」
少しだけ迷う。
だが答えは決まっていた。
「死因の記録」
歴代聖女たちは何故亡くなったのか。
何故そこまで後継者を急いだのか。
何故『時間が足りない』と書き残したのか。
答えはきっとそこにある。
セレスはそう思った。
窓から差し込む夕日が本棚を赤く染めている。
記録室の奥は静かだった。
まるで。
ずっと昔から誰かがこの時を待っていたかのように。




