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閲覧制限


 翌日。


 セレスは再び記録室を訪れていた。


 昨日より少し早い時間だった。


 約束していた資料を読むためである。


「お待ちしておりました」


 老神官が一礼する。


「ありがとうございます」


 セレスも頭を下げた。

 


 案内されたのは記録室の奥だった。


 普段使われている棚とは別の場所。


 扉が一枚ある。


 鍵が掛けられていた。


「ここです」


 老神官が鍵を開ける。


 重い音が響いた。


 中は思ったより普通の部屋だった。


 本棚。


 机。


 椅子。


 特別な装飾はない。


 だが保管されている資料は違う。


 表紙に封印印が押された帳簿が並んでいた。


「全部ですか?」


 セレスが尋ねる。


「歴代聖女に関する詳細記録になります」


 老神官が答えた。


「接続記録」


「継承記録」


「聖女個人による報告書」


 セレスは目を瞬く。


 そんなものが残されていたのか。


「知らなかった」


 思わず本音が漏れる。


 老神官は少し笑った。


「聖女様方でも全て読まれる方は少ないですよ」


 量が膨大だからだ。


 数百年分ある。


 当然だった。


 老神官が一冊を机へ置く。


「昨日の続きはこちらになります」


 セレスは表紙を見る。


 七十年前。


 意識混濁の記録があった時代。


 同じ番号が振られていた。


 老神官が退室する。


 部屋にはセレスとユリアだけが残った。


「読めるのか」


 ユリアが聞く。


「たぶん」


 セレスは頷く。


 聖女しか使わない専門用語も多い。


 ページを開く。


 昨日の続き。


 原因不明。


 経過観察。


 接続継続。


 そこまでは同じだった。


 さらに先へ進む。


『接続負荷増加を確認』


 セレスの視線が止まる。


 次の行。


『国心環側の変動なし』


 さらに次。


『原因特定できず』



「負荷?」


 ユリアが聞く。


 セレスは考える。


「接続するときの負担かな」


 聖女は国心環と接続する。


 その際に負担が生じることはある。


 ただし通常は微々たるものだ。


 さらに読み進める。


『接続継続可能』


『本人希望により経過観察』


 淡々とした文章。


 だが。


 その奥に何かを隠しているようにも見えた。


 数ページ後。


 また手が止まる。


『後継候補選定開始』


 セレスは眉をひそめた。


「どうした」


 ユリアが聞く。


「少し変」


 そう答える。


「何が」


「流れ」


 聖女が後継候補を育てること自体は普通だ。


 珍しくない。


 セレスもいずれ行う。


 だが。


 この記録には妙な切迫感があった。


『候補者教育開始』


『継承準備を前倒し』


『記録引き継ぎ作業開始』


 文章が急に増えている。


 まるで時間がないかのように。


「……」


 セレスは黙る。


 嫌な予感というほどではない。


 ただ。


 何かが引っ掛かる。


 さらにページをめくる。


 そして。


 ある箇所で止まった。


『本人の希望により記録終了』


 それだけだった。


「終わり?」


 セレスが呟く。


 その先には何もない。


 数ページ白紙。


 


 セレスは次の帳簿を手に取る。


 少し古びた表紙。


 開く。


 最初のページを見る。


 そして。


 息を止めた。


『第十五代聖女逝去』


 短い一文。


 たったそれだけ。


 だが。


 その文字だけが妙に重く見えた。


 部屋が静まり返る。


 セレスは無意識にページをめくった。


 そこに何が書かれているのか。


 知りたいと思ってしまったから。

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