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異常なし


 翌日。


 セレスは診察室にいた。


 向かいには神殿専属の医師。


 以前診てもらった人物と同じだった。


「またですね」


 医師が言う。


「またです」


 セレスも答える。


 少しだけ気まずい。


 前回は祭りの後だった。


 今回は祈祷中の違和感。


「神官長が心配性なんです」


「知っています」


 医師は即答した。


 長い付き合いらしい。


 診察は前回より丁寧だった。


 問診。


 脈拍。


 呼吸。


 反応の確認。


 いくつかの質問。


「意識を失ったわけではないんですね」


「はい」


「倒れたわけでもない」


「はい」


「頭痛は?」


「ありません」


「吐き気は?」


「ありません」


「熱は?」


「ありません」


 自分で言っていて思う。


 本当に元気だった。


「ふむ」


 医師は考え込む。


 セレスは待つ。


 しばらくして。


「現時点では異常は見当たりません」


 そう告げられた。


 セレスは小さく息を吐く。


 やっぱり。


 という気持ちだった。


「ただ」


 医師が続ける。


 セレスは少しだけ嫌な顔をした。


 この「ただ」は大抵ろくでもない。


「疲労の蓄積はあります」


「それはあります」


 素直に認める。


 巡礼直後だ。


 忙しくもある。


「少し休養を増やしてください」


「善処します」


「実行してください」


 前回と同じことを言われた。


 


 診察室を出る。


 廊下には神官長とユリアがいた。


 なぜいるのだろう。


 結果待ちだろうか。


 心配しすぎである。


「どうでしたか」


 神官長が聞く。


「異常なしです」


 セレスが答える。


 神官長が医師を見る。


 医師も頷いた。


「現時点では問題ありません」


 その言葉に神官長もようやく安心したようだった。


 

 ユリアと自室へ戻る途中。


 セレスは少し機嫌が良かった。


「ほら」


 言う。


「異常なし」


 ユリアは黙っている。


「聞いた?」


「聞いた」


「大丈夫だった」


「ああ」


 返事が薄い。


 セレスは少し頬を膨らませた。


「嬉しくないの?」


「嬉しい」


「ならもっと喜んで」


「喜んでる」


 全くそう見えなかった。


「でもな」


 ユリアが言う。


「何?」


「二回続いた」


 セレスの表情が少し変わる。


 前回。


 祭りの後。


 今回。


 祈祷中。


「偶然かもしれない」


 セレスは言う。


「かもしれない」


 ユリアも認める。


「でも違うかもしれない」


 その言葉に。


 セレスは少し黙った。


 分かっている。


 だから昨日、ユリアに話した。


 全く気にしていないわけではない。


 ただ。


「今考えても仕方ないよ」


 そう言うしかなかった。


「もしまた何かあったら」


「うん」


「その時はちゃんと言う」


 約束する。


 隠したりはしない。


 少なくともユリアには。


 ◇


 その日の夕方。


 セレスは大聖堂へ向かった。


 仕事が残っていたからだ。


 神官たちと話し。


 書類を確認し。


 見習いたちの様子を見る。


 いつもの日常。


 その中で。


「あっ」


 声がした。


 リシュリーだった。


「聖女様!」


 駆け寄ってくる。


 そして途中で歩き直す。


 いつものことだった。


「こんにちは」


「こんにちは!」


 元気な返事。


 セレスは少し笑う。


「診察どうでしたか?」


 真っ先に聞かれた。


 どうやら気になっていたらしい。


「異常なしでした」


 答える。


 すると。


 リシュリーは本当に安心した顔をした。


「良かった……」


 ぽろりと本音が漏れる。


 セレスは目を瞬く。



「あたし」


 リシュリーは少し照れながら言う。


「聖女様が倒れたら嫌なので」


 真っ直ぐだった。


 飾り気がない。


 だからこそ伝わる。


 セレスは思わず笑った。


「ありがとうございます」


 そう言って頭を撫でる。


 少しだけ。


 リシュリーの顔が真っ赤になった。


 ◇


 その日の夜。


 自室の窓から月が見えた。


 診察結果は異常なし。


 体調も悪くない。


 明日も仕事だ。


 普段通りの日々が続いていく。


 そのはずだった。


 けれど。


 ユリアの言葉だけは少し残っていた。


『二回続いた』


 確かにそうだ。


 一回なら気のせい。


 二回なら偶然。


 では三回目は。


「……考えすぎだよね」


 誰に言うでもなく呟く。


 そして本を開く。


 文字を追う。


 やがて。


 いつものように夜は更けていった。


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