表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/69

もう一度


 翌朝。


 セレスはいつも通り起きた。


 身支度を整える。


 朝食を取る。


 体調も悪くない。


 熱もない。


 頭も痛くない。


「ほら」


 セレスが言う。


「元気」


 向かいに座るユリアは無言だった。


「元気だよ」


「そうだな」


 返事が適当だった。


 全く信用していない。


 


 午前中。


 セレスは面会をこなした。


 書類も片付けた。


 祈りも問題ない。


 昨日のようなことは起きない。


 本当に普通だった。


 だから。


 昼過ぎにはセレスも安心し始めていた。


 やっぱり疲れていただけ。


 そう思い始めていた。


 ◇


「聖女様」


 廊下を歩いていると声を掛けられる。


 リシュリーだった。


「あら、こんにちは」


「こんにちは!」


 今日も元気だ。


 相変わらず真っ直ぐな目をしている。


「勉強は順調ですか?」


「はい!」


 良い返事だった。


 そして。


 少し迷ったように口を開く。


「あの」


「はい」


「昨日」


 そこで言葉が止まる。


 セレスは首を傾げた。



「あたしの気のせいかもしれないんですけど」


 リシュリーは少し不安そうだった。


「聖女様、体調悪かったですか?」


 セレスは一瞬だけ目を瞬く。


 昨日の祈りのことだろう。


「どうしてそう思ったんですか?」


「えっと……」


 リシュリーは困ったように言う。


「なんとなくです」


 本当に何となくらしい。


「一瞬だけですけど」


 憧れの人だから見ていたのだろう。


 セレスは微笑んだ。


「大丈夫ですよ」


 いつもの笑顔で。


「少し疲れていただけです」


 リシュリーは安心したような。


 でも完全には納得していないような。


 そんな顔をした。


「無理しないでくださいね」


 真剣な声だった。


 セレスは思わず笑う。


「ありがとうございます」


 十五歳の少女に心配されるとは思わなかった。


 ◇


 その日の夕方。


 セレスは神官長室に呼ばれた。


「聖女様」


 神官長が言う。


「昨日の祈祷についてです」


 セレスの笑顔が固まる。


 嫌な予感しかしなかった。


「神官長」


「はい」


「誰から聞きました?」


 神官長は少し考える。


「複数ですね」


 終わった。


 セレスは察した。


 神官。


 見習い。


 そしておそらく。


 ユリア。



「体調に問題はありません」


 先に言った。


 だが。


 神官長は頷かない。


「前回もそうおっしゃっていましたね」


 痛いところを突かれる。


 祭りの後も同じことを言った。


「実際に問題ありませんでした」


「そうですね」


 神官長は認めた。


「だから今回も問題ないかもしれません」


 セレスは少しだけ希望を見出す。


 しかし。


「念のため診察を受けてください」


 駄目だった。


 全く駄目だった。


「神官長」


「受けてください」


「昨日は数秒だけです」


「受けてください」


「今日は元気です」


「受けてください」


 会話が成立しない。


 セレスは額を押さえた。


 どこかで見た光景だった。


 部屋を出る。


 廊下にはユリアがいた。


 壁にもたれて待っている。


 セレスはじっと見つめた。


「なんだ」


 ユリアが言う。


「言った?」


「言った」


 即答だった。


 全く悪びれない。


「裏切り者」


「違う」


「違わない」


 セレスはため息を吐く。


 だが。


 本気で怒っているわけではなかった。




「明日診察だって」


 セレスが言う。


「そうか」


「異常なしだったら笑うから」


「好きにしろ」


 ユリアは肩をすくめる。


 だがその表情は少しだけ安心していた。


 診察を受ける。


 それだけで。


 少なくとも何もしないよりはいい。


 そう思っているのだろう。


 セレスは窓の外を見る。


 夕暮れだった。


 昨日のことが少し大袈裟になっている気もする。


 でも。


 もし本当に何かあったら。


 そう考える自分もいた。


「まあいいか」


 小さく呟く。


 明日診てもらって。


 何もなければ終わり。


 セレスはゆっくり息を吐いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ