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約束の休日



 翌朝。


 セレスは珍しく目覚ましより先に起きていた。


 身支度も早い。


 朝食も早い。


 準備万端だった。


「子供か」


 ユリアが言う。


「違う」


 即答だった。


「楽しみにしてただけ」


「子供だな」


「違うもん」


 反論に力がない。


 


 今日は休日だった。


 巡礼後の貴重な休み。


 神官長も認めている正式な休日である。


 そのため。


 セレスは聖女の法衣ではなく、街へ出るための簡素な服を着ていた。


 髪型も少し違う。


 変装というほどではない。


 だが一目で聖女だと分かる格好でもない。


「どう?」


 くるりと一回転する。


「普通だな」


「もっと何かあるでしょ」


「普通に似合ってる」


 セレスは少しだけ満足した。


 


 二人は神殿を出る。


 久しぶりの街だった。


 人通りが多い。


 店も多い。


 活気がある。


「まずどこ行く」


 ユリアが聞く。


「本屋」


 即答だった。


 焼き菓子じゃないらしい。


「珍しいな」


「続きが出たの」


 巡礼前から楽しみにしていた本だった。


 


 本屋へ入る。


 セレスの目が輝いた。


「ある!」


 目当ての本を発見したらしい。


 迷わず手に取る。


 中身を確認する。


 嬉しそうだった。


「買うのか」


「買う」


 即答だった。


 値段も見ていない。


「好きだな」


「好き」


 こちらも即答だった。


 


 その後も店を回る。


 雑貨屋。


 文房具店。


 布屋。


 特に目的がなくても見ているだけで楽しい。


 セレスはあちこち足を止めていた。


「これ可愛い」


「そうか」


「こっちも可愛い」


「そうか」


 ユリアの反応は変わらない。


 だがちゃんと聞いている。


 それをセレスは知っていた。


 ◇


 昼。


 ようやく目的の焼き菓子店へ入る。


 巡礼前から楽しみにしていた店だった。


「どれにしよう」


 セレスが真剣な顔になる。


 今までで一番真剣かもしれない。


「全部」


 ユリアが言う。


「それは太る」


 珍しく冷静だった。


 


 結局。


 焼き菓子と紅茶を注文した。


 窓際の席へ座る。


 店内は静かだった。


「美味しい」


 一口食べたセレスが言う。


 本当に嬉しそうだ。


「良かったな」


「うん」


 笑顔になる。


 巡礼中には見られなかった顔だった。


 


 しばらくのんびり過ごす。


 本の話。


 巡礼の話。


 街の話。


 他愛のない会話ばかりだった。


 それが心地良い。


「こういう日も大事だね」


 セレスが言う。


「そうだな」


 ユリアも頷く。


 忙しい日々の合間だからこそ。


 こういう時間は貴重だった。


 ◇


 帰り道。


 夕暮れが近付いていた。


「楽しかった」


 セレスが言う。


「それは良かった」


「また来ようね」


「ああ」


 自然な約束だった。


 特別な意味はない。


 いつものように交わした言葉。


 


 その時だった。


 不意に視界が揺れる。


「……」


 ほんの一瞬。


 本当に一瞬だった。


 立ち止まるほどではない。


 苦しくもない。


 痛くもない。


 ただ。


 何かがずれたような感覚。


「セレス?」


 ユリアが声を掛ける。


「ん?」


 我に返る。


「どうした」


「なにもないよ」


 自然に笑う。


 実際、もう何ともなかった。


 気のせいだろう。


 疲れが残っているだけかもしれない。


「そうか」


 ユリアもそれ以上は聞かなかった。


 


 神殿へ帰る。


 休日は終わりだった。


 明日からまた忙しくなる。


 見習いたち。


 神官たち。


 リシュリー。


 やることはたくさんある。


「頑張ろう」


 セレスは小さく呟く。


 その横顔は穏やかだった。


 だが。


 帰り道で感じた違和感だけは、心のどこかに小さく残っていた。


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