おかえりなさい
巡礼十四日目。
昼過ぎ。
中央神殿の尖塔が見えてきた。
「あ」
セレスが窓の外を指差す。
「見えた」
「ああ」
ようやく帰ってきた。
二週間。
長いようで短かった旅も終わりである。
正門前には多くの人が集まっていた。
神官。
神女。
見習いたち。
出迎えのためだろう。
馬車が止まる。
扉が開く。
セレスが降りると歓声が上がった。
「聖女様!」
「おかえりなさい!」
「巡礼お疲れ様でした!」
セレスは微笑む。
「ただいま戻りました」
穏やかな声だった。
出迎えは思った以上に盛大だった。
神官長もいる。
幹部神官たちもいる。
皆が巡礼の無事を喜んでいた。
「お疲れ様でした」
神官長が言う。
「ありがとうございます」
セレスは頭を下げる。
「問題なく終えられました」
「それは何よりです」
神官長も安堵したようだった。
その時。
人混みの向こうから声がした。
「聖女様!」
聞き覚えがある。
振り返る。
リシュリーだった。
人混みをかき分けるように前へ出てくる。
そして途中で気付く。
自分が目立っていることに。
ぴたりと止まった。
周囲の視線が集まる。
「あっ」
顔が赤くなる。
セレスは思わず笑った。
「ただいま戻りました」
セレスが言う。
リシュリーの顔がぱっと明るくなった。
「おかえりなさい!」
元気な声だった。
「お疲れ様でした!」
「ありがとうございます」
セレスは微笑む。
「頑張ってきました」
「聞きたいです!」
即答だった。
「巡礼のお話!」
周囲の見習いたちも頷いている。
どうやらみんな気になっていたらしい。
「では今度お話ししましょう」
セレスが言う。
「本当ですか!?」
「本当です」
リシュリーは本当に嬉しそうだった。
その様子を見ていると、こちらまで嬉しくなる。
その後。
巡礼報告や挨拶が続く。
ようやく解放された頃には夕方になっていた。
「終わった……」
自室へ戻ったセレスが呟く。
椅子へ座る。
ぐったりだった。
「お疲れ」
ユリアが言う。
「疲れた」
「知ってる」
いつもの会話だった。
「でも帰ってきた」
セレスは笑う。
慣れた部屋。
慣れた景色。
やはり落ち着く。
「そうだな」
「自分の部屋最高」
聖女らしくない発言だった。
ユリアは少し笑う。
その時。
扉がノックされた。
「どうぞ」
入ってきたのは侍女だった。
手には封筒がある。
「聖女様宛のお手紙です」
「私に?」
「巡礼中に届いたものになります」
かなりの量だった。
十通。
二十通。
もっとある。
セレスが目を丸くする。
「こんなにですか?」
「人気者ですから」
侍女が笑った。
侍女が去る。
部屋に静寂が戻る。
セレスは手紙の山を見る。
「仕事だ」
ぽつりと言う。
「仕事だな」
ユリアも同意した。
「休み……」
「明日だろ」
巡礼明けの休み。
約束していた。
セレスは少しだけ元気を取り戻す。
「そうだった」
「忘れてたのか」
「少し」
正直だった。
窓の外を見る。
中央神殿の夕暮れ。
見慣れた景色。
そしてどこかで、リシュリーも今日の出来事を誰かに話しているのかもしれない。
そんなことを考える。
「ねえ」
「なんだ」
「明日楽しみ」
セレスが笑う。
ユリアも小さく頷いた。
巡礼は終わった。
明日は久しぶりの休日。




