帰路
巡礼十三日目。
ようやく帰路についた。
最後の訪問先を終え、一行は中央神殿へ向かっている。
「長かった」
セレスが窓の外を見ながら言う。
「そうか?」
ユリアが答える。
「長かったよ」
即答だった。
「でも早かった」
「どっちだ」
「両方」
自分でもよく分からない。
ただ充実していたことだけは確かだった。
馬車の中には巡礼中にもらった手紙や報告書が積まれている。
各地の神殿から託されたものだ。
「帰ったら仕事だな」
ユリアが言う。
セレスが固まった。
「言わなくていいのに」
「事実だ」
「休みたい」
「珍しいな」
珍しかった。
セレスが自分からそう言うのは。
「一日だけだからね」
セレスは言う。
「巡礼終わったら休む」
「約束だったな」
「約束」
街へ行く。
本屋へ行く。
焼き菓子を買う。
巡礼中、何度も話した予定だった。
「楽しみ?」
「楽しみ」
これも即答だった。
◇
夕方。
一行は途中の宿場町へ到着する。
中央神殿まではあと一日。
今夜が巡礼最後の宿泊だった。
「お疲れ様です」
神官たちの表情も明るい。
皆疲れている。
だが無事に終わりそうな安心感もあった。
◇
夕食後。
セレスは一人で宿の中庭へ出た。
風が気持ち良い。
巡礼中は一人になる時間が少ない。
だからこういう時間は貴重だった。
「ここにいたか」
ユリアがやって来る。
「いた」
セレスは笑う。
「最後の夜だね」
「ああ」
巡礼最後の夜。
そう言われると少し寂しい。
「今年も色んな人に会ったな」
セレスが言う。
「そうだな」
「みんな頑張ってた」
村人も。
神官も。
子供たちも。
見習いたちも。
みんなそれぞれの場所で頑張っていた。
「私も頑張らなきゃ」
自然と口に出る。
ユリアは少し眉をひそめた。
「十分頑張ってる」
「まだ足りない」
セレスは首を振る。
「上には上がいるもん」
歴代聖女の記録も読んだ。
立派な人はたくさんいた。
「だからもっと」
「お前はそういうところだな」
ユリアが小さく息を吐く。
「リシュリーも頑張ってるし」
セレスが言う。
最近よく名前が出る。
「またその話か」
「だって頑張ってるんだよ」
少し楽しそうだった。
「帰ったら成長してるかもしれない」
「二週間だぞ」
「少しは成長するかも」
セレスは笑う。
その姿を見ながら。
ユリアはふと思う。
セレスは本当に人の成長を喜ぶ。
昔から。
自分のことのように。
夜風が吹く。
静かな時間だった。
「ねえ」
セレスが言う。
「なんだ」
「巡礼、来年も頑張ろうね」
何気ない言葉だった。
毎年している仕事。
来年も当然ある。
そう信じている声。
「そうだな」
ユリアも答える。
何も疑わず。
いつものように。
空を見上げる。
星が綺麗だった。
巡礼はもうすぐ終わる。
中央神殿へ帰れば日常が戻る。
忙しい毎日。
仕事。
見習いたち。
リシュリー。
街へ出る約束。
やることはたくさんあった。
だから。
セレスは笑う。
穏やかな夜だった。




