聖女候補
巡礼十日目。
一行は東部神殿を発つことになった。
出発前。
セレスは神殿長に呼び止められる。
「聖女様」
「はい」
「少しお時間をいただけますか」
珍しいことだった。
セレスは頷く。
「もちろんです」
通されたのは神殿長室だった。
机を挟んで向かい合う。
神殿長はしばらく資料を眺めていたが、やがて一枚の書類を差し出した。
「中央神殿の見習いについてです」
「見習い?」
セレスは書類を見る。
そこには何人かの名前が並んでいた。
神官候補。
神女候補。
成績評価。
人物評価。
「優秀な子が多いですね」
「ええ」
神殿長が頷く。
「その中でも特に注目されている子がいます」
指先が一つの名前を示した。
リシュリー。
セレスは少し目を瞬く。
「頑張り屋さんですよね」
自然と笑みが零れた。
神殿長も頷く。
「平民出身ですが非常に優秀です」
勉学。
祈り。
奉仕活動。
どれも高い評価だった。
「まだ若いですが、将来が楽しみな子です」
セレスは書類へ目を落とす。
知っている。
努力していることを。
真面目なことを。
そして。
少し不器用なことも。
「聖女様はどう思われますか」
神殿長が聞いた。
セレスは少し考える。
そして答えた。
「良い子ですよ」
それが最初の感想だった。
「人のために頑張れる子だと思います」
神殿長は静かに聞いている。
「それに努力を続けられる」
それは簡単なようで難しい。
セレス自身がよく知っていた。
「だから期待しています」
そう言って微笑んだ。
◇
話が終わる。
神殿長室を出る。
廊下を歩く。
すると。
「何の話だった」
待っていたユリアが聞いた。
「リシュリー」
セレスが答える。
「またか」
「また」
少し笑う。
最近よく名前を聞く。
それだけ注目されているということだろう。
「優秀なんだって」
歩きながら話す。
「そうか」
「将来有望らしい」
「そうか」
相変わらず反応が薄い。
セレスは少し不満そうな顔になる。
「興味ない?」
「ないわけじゃない」
ユリアは肩をすくめた。
「お前が気に入ってるんだろ」
「気に入ってるっていうか」
少し考える。
「応援したくなる」
その言葉が一番近かった。
「昔の自分を思い出すとかか」
ユリアが言う。
セレスは足を止めた。
「そうかも」
少し驚く。
考えたこともなかった。
「似てる?」
「少し」
完璧ではない。
でも。
努力して。
必死に前を向いて。
誰かの役に立ちたいと思っているところは。
少しだけ似ている気がした。
◇
出発の時間になる。
一行は再び馬車へ乗り込んだ。
次の目的地へ向かう。
車輪が動き出す。
「帰ったら会えるかな」
セレスが窓の外を見ながら言う。
「リシュリーか」
「うん」
「会えるだろ」
中央神殿の見習いなのだから。
当然と言えば当然だった。
「そうだよね」
セレスは笑う。
安心したように。
馬車は街道を進んでいく。
巡礼も残り数日。
長いようで短かった。
多くの人と出会った。
多くの話を聞いた。
そして。
中央神殿では今日もリシュリーが勉強しているのだろう。
聖女に憧れながら。
少しでも近付こうとしながら。
そんなことを考えていると。
セレスは自然と笑顔になった。
「楽しそうだな」
ユリアが言う。
「そう?」
「ああ」
セレスは窓へ映る自分を見る。
確かに少し笑っていた。
理由はよく分からない。
ただ。
頑張っている誰かを見ると嬉しくなる。
それだけだった。




