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祭りの約束


「あと何日だっけ」


 セレスが窓の外を見ながら言った。


「何がだ」


「お祭り」


 ユリアは少し考える。


「二週間くらいか」


「そっか」


 嬉しそうだった。


 去年も行った。


 一昨年も行った。


 街の収穫祭。


 屋台が並び、人で賑わい、夜には灯りが街を彩る。


 セレスはあの祭りが好きだった。


「楽しみ?」


 ユリアが聞く。


「楽しみ」


 即答だった。


「子供みたいだな」


「失礼」


 セレスは振り返る。


「ちゃんと理由があるもん」


「聞こうか」


「焼き菓子」


「食い気か」


「大事」


 真顔だった。


 ユリアは少し笑う。


 それだけではないことを知っている。


「他は」


「屋台」


「うん」


「音楽」


「うん」


「人が楽しそう」


「うん」


 セレスは少し考える。


 それから。


「ユリアと行くから」


 そう言った。


 ユリアは黙る。


 最近こういうことを言われても驚かなくなった。


 少しは慣れた。


 本当に少しだけ。


「そうか」


「そう」


 セレスは満足そうだった。


 ◇


 数日後。


 神殿の中庭。


 昼休みだった。


 セレスは木陰の長椅子に座りながら、何やら紙を見ている。


「何だそれ」


 ユリアが隣に腰掛ける。


「祭りの案内」


「もう手に入れたのか」


「もらった」


 広げて見せてくる。


 祭りの予定。


 出店一覧。


 催し物。


 細かく書かれていた。


「見て」


「ん」


「今年は新しいお店来るんだって」


「そうか」


「興味ない?」


「ある」


「嘘」


「少しはある」


 正直だった。


 セレスは笑う。


「ユリアは?」


「何がだ」


「行きたいところ」


 ユリアは案内を眺める。


 しばらく考える。


「特にない」


「予想通り」


 セレスは頷いた。


 知っていた。


 この人はそういう人だ。


「じゃあ私が決める」


「任せる」


「いいの?」


「ああ」


 どうせセレスが楽しそうにしているのを見るだけでも十分だから。


 そんなことは言わないが。


「まず焼き菓子」


「知ってる」


「それから果実飴」


「うん」


「あと雑貨」


「長くなりそうだな」


「なる」


 即答だった。


 ユリアはため息を吐く。


 だが諦めてもいる。


 毎年そうだから。


「付き合ってね」


「付き合う」


「嫌そう」


「嫌じゃない」


 本当だった。


 人混みは好きではない。


 騒がしい場所も得意ではない。


 だが。


 セレスが隣にいるなら別だった。


 ◇


 その日の夜。


 二人は窓際の長椅子に座っていた。


 仕事も終わり、静かな時間だった。


 セレスは祭りの案内をまだ持っている。


「好きだな」


 ユリアが言う。


「好き」


 即答だった。


「祭りも好きだけど」


 セレスは紙を畳む。


「約束したのも嬉しかった」


「約束?」


「去年」


 ユリアは思い出す。


 ああ。


 そういえば。


 来年も一緒に祭りへ行こう。


 そんな約束をした。


「覚えてたのか」


「覚えてるよ」


 セレスは少し呆れた顔になる。


「忘れてた?」


「少し」


「ひどい」


「行く気はあった」


「それは分かる」


 セレスは笑う。


 怒ってはいない。


 本当に忘れていたわけではないことも分かっている。


「ねえ」


「なんだ」


「来年も行こうね」


 自然な言葉だった。


 今年ではなく。


 来年も。


 ユリアは少しだけ首を傾げる。


「気が早いな」


「いいじゃない」


「そうか」


「うん」


 セレスは笑った。


「再来年も」


「気が早い」


「その次も」


「早い」


「ずっと」


 楽しそうだった。


 ユリアは思わず笑う。


「欲張りだな」


「そうかな」


「そうだ」


 セレスは少し考える。


 そして。


「ユリアといる時間は好きだから」


 そう言った。


 静かに。


 当たり前のことのように。


 ユリアは返事をしなかった。


 代わりにセレスの頭を軽く撫でる。


「髪」


「ん?」


「乱れる」


「いいだろ」


「よくない」


 セレスは文句を言う。


 けれど嫌そうではない。


 ユリアはもう一度だけ撫でた。


「もう」


「文句が多い」


「ユリアが子供扱いするから」


「してない」


「してる」


 いつもの言い合いになる。


 窓の外では夜風が吹いていた。


 穏やかな時間だった。


 祭りまで、あと少し。


 セレスは本当に楽しみにしているらしい。


 そのことが、ユリアには少しだけ嬉しかった。


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