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永遠の先へ



 あれから数日が過ぎた。


 神殿は落ち着きを取り戻していた。


 国心環は変わらず静かに輝いている。


 けれど。


 もう誰も接続しない。


 もう誰も命を削らない。


 何百年も続いた仕組みは終わった。





 リシュリーは国心環の間を訪れていた。


 最近では日に一度は足を運んでいる。


 理由は単純だった。


 国心環へ触れれば。


 二人と話せるからだ。


 そっと手を伸ばす。


 国心環へ触れる。


 温かな感触。


 少し待つ。


 すると。


『リシュリーさん』


 聞き慣れた声が響いた。


 リシュリーは自然と笑みを浮かべる。


「こんにちは」


『こんにちは』


 セリアの声は今日も穏やかだった。


『神官長も来た』


 ユリアの声が聞こえる。


 振り返ると。


 神官長がちょうど部屋へ入ってきたところだった。


 神官長が国心環へ触れる。


「お二人ともお変わりないようで何よりです」


『変わりようがないんだけどね』


 セリアが苦笑する。


『魂みたいなものだから』


『オレもその辺はよく分からん』


 ユリアが返す。


 リシュリーは思わず笑った。


『そういえば』


 セリアが不意に言う。


『この前はありがとう』


「この前?」


 リシュリーが首を傾げる。


『お父さんとお母さん』


 その言葉で理解した。


 セリアの両親への説明のことだ。


「ご覧になっていたのですか」


 神官長が尋ねる。


『うん。繋がっているから見える』


 セリアは素直に答えた。


『最初から最後まで』


 少しだけ沈黙が落ちる。


『怒ってたね』


 小さく笑う。


『そりゃそうだよね』


 神官長も頷いた。


「ですが最後は受け入れてくださいました」


 静かな声だった。


『うん』


 セリアも答える。


『見てたから。泣いてたなぁ』


 少し寂しそうな声。


『心配かけちゃった』


「魂の誓約も問題なく結んでいただけました」


 神官長が言う。


 神殿関係の事を他言する事を禁ずる、魂をかけて誓う契約だ。

 

 セレスの事、セリアの事を神殿長とリシュリーが両親に話したのだ。


『お父さん最後まで疑ってたけどね』


 セリアが笑う。


『信じるしかない状況だったからな』


 ユリアが言った。


『あれは仕方ない』


 その言葉に。


 三人とも小さく笑った。


「今も見えているのですか?」


 リシュリーが尋ねる。


『うん』


 セリアは迷わず答えた。


『お父さんもお母さんも、神殿も街も』


 優しい声だった。


『みんな見えてる』


 国心環と繋がった二人は、国を見守っている。


 人々の暮らしを。


 誰かの笑顔を。


 誰かの涙を。


 静かに。


 穏やかに。


「寂しくありませんか」


 気付けばリシュリーは尋ねていた。


 姿もない。


 触れることもできない。


 そんな在り方を。


 自分なら耐えられるだろうか。


 少しの沈黙。



 最初に答えたのはユリアだった。


『別に』


 短い返事。


『隣にいるしな』


 一瞬の静寂。


 それから。


『ちょっと』


 セリアの呆れた声が響く。


『もっと他に言い方あるでしょ』


『本当のことだろ』


『そうだけど』


 照れたような声だった。


 リシュリーは思わず吹き出す。


 神官長も僅かに口元を緩めた。


 十五年前。


 叶わなかった願いがあった。



 もっと生きたい。


 もっと一緒にいたい。


 愛する人と同じ時間を歩みたい。


 けれど今は違う。


 その願いは叶っている。


 二人は共にいる。


 もう二度と離れない。




『リシュリーさん』


 セリアが呼ぶ。


「はい」


『今までありがとう』


 優しい声だった。

 

 どこまでも穏やかで。


 幸せそうな声だった。


 リシュリーは微笑む。


「こちらこそ、ありがとうございました」




 


 国心環は静かに輝いている。


 もう聖女を縛ることはない。


 もう誰かの命を求めることもない。


 それでも。


 人々の願いはそこにある。


 悲しみも。


 希望も。


 未来も。


 全て。


 

 そして。


 その傍にはいつも二人がいる。


 聖女と護衛ではなく。


 セリアとユリアとして。


 寄り添いながら。


 人々を見守りながら。


 これからも。


 ずっと永遠に。


 


― 完 ―

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