終わったもの
リシュリーは国心環へ手を伸ばした。
確かめるように。
白い環へ触れる。
その瞬間――
「……」
何も起きなかった。
リシュリーは瞬きをする。
もう一度触れる。
それでも変わらない。
光はある。
国心環はそこにある。
けれど。
何かが違った。
今までなら分かった。
接続した瞬間。
人々の願い。
苦しみ。
悲しみ。
様々な感情が流れ込んでくる。
それが聖女だった。
それが国心環だった。
だが。
今は違う。
何も感じない。
苦しくない。
負荷もない。
白い糸も見えない。
「神官長」
リシュリーが振り返る。
「接続できません」
リシュリーに追いついた神官長は入口で静かに頷いた。
神官長は白い環を見る。
「聖女との接続がなくなったのです」
部屋が静まり返る。
「初代聖女は接続解除を行う予定だった」
神官長は続けた。
「しかし最後の条件を満たせなかった」
だから解除は起こらなかった。
国心環は残った。
聖女制度も続いた。
何百年も。
ずっと。
「セレス様も同じでした」
神官長の声は静かだった。
「国心環は完全に浄化された」
「ですが願いが残った」
その願いは。
ユリアの中へ移った。
十五年間。
ずっと。
残り続けた。
「そして今日」
神官長は微笑む。
「願いが叶った」
リシュリーは小さく呟く。
「ユリアさんと一緒に生きたい……」
「はい」
神官長は頷いた。
「セリア様がそれを認識した。だから解除されたのです」
リシュリーは再び国心環を見る。
何も感じない。
けれど。
不思議と空っぽではなかった。
むしろ。
穏やかだった。
優しかった。
今まで背負っていた重荷が消えたような。
そんな感覚。
「終わったんですね」
ぽつりと呟く。
神官長は少し考えた。
そして。
「終わりではないのでしょう」
そう答えた。
リシュリーが顔を上げる。
「え?」
神官長は国心環へ視線を向けた。
静かに輝く白い環。
もう人を縛らない。
もう命を削らない。
だが。
存在している。
「形が変わっただけです」
その言葉に。
リシュリーはもう一度国心環へ手を触れた。




