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途切れた記録



 書庫には紙をめくる音だけが響いていた。


 セリアたちはそれぞれ資料を読み進めている。


 初代聖女。


 一代限り。


 十九歳で死亡。


次の世代に繋げる。


 分かったことは増えた。


 だが肝心な部分が抜けている。


「死亡原因は?」


 ユリアが言った。


 全員の手が止まる。


 確かにそうだった。


 十九歳で亡くなったことは分かった。


 だが。


 なぜ亡くなったのかは書かれていない。


「確か以前、見た記憶があります」


 神官長が別の束へ手を伸ばした。


 しばらくして。


「ありました」


 神官長が静かに言う。


 三人が顔を上げた。


 古い報告書だった。


 文字の一部は消えかけている。


 だが読める。


『大災害発生』


『各地で被害拡大』


『環への流入急増』


 神官長は眉をひそめた。


 続きを読む。


『浄化継続』


『環の安定を優先』


『解除延期』


 セリアの心臓が跳ねた。


「解除延期……?」


 思わず呟く。


 神官長も同じ箇所を見つめていた。


「延期ということは」


 リシュリーが言う。


「解除する予定があった……?」


 誰も答えない。


 だが全員同じことを考えていた。


 初代は最初から解除を予定していた。


 そうとしか読めない。


 セリアは別の資料へ手を伸ばす。


 すると。


 そこにも似た記述があった。


『完了後に解除』


『後日実施予定』


『災害収束後』


 短い文ばかりだった。


 だが十分だった。


 何度も、何度も。

 

 解除という言葉が出てくる。


「本当にあったんですね」


 セリアが呟く。


「接続解除」


 神官長は静かに頷いた。


 今の神殿には残っていない知識。


 けれど。


 初代の時代には確かに存在していた。


 さらに調査を続ける。


 だが。


 肝心の解除方法が見つからない。


 どの記録も途中で終わっている。


 災害対応。


 被害報告。


 避難記録。


 そして。


 十九歳での死。


 その後がない。


「ここで途切れてる」


 セリアが呟く。


 最後の記録は短かった。


『継続接続を決定』


 それだけ。


 続きの紙は残っていない。


 神官長は長く息を吐いた。


「おそらく」


 三人が顔を上げる。


「初代聖女は災害対応を優先したのでしょう」


 静かな声だった。


「本来行うはずだった解除を後回しにして」


「国を守ることを選んだ」


 セリアは目を伏せる。


 想像できてしまった。


 苦しんでいる人々。


 助けを求める声。


 それを見て。


 見捨てられる聖女ではなかったのだろう。


 少なくとも、自分と同じなら。


 絶対に無理だ。


「そのまま亡くなった……」


 リシュリーが小さく呟く。


 神官長は否定しなかった。


 部屋が静まり返る。


 誰も初代を責められない。


 むしろ、その選択を理解できてしまう。


 だから苦しかった。


 セリアはふと窓の外を見る。


 青空が広がっていた。


 十五年前。


 自分も同じだった。


 生きたいと思った。


 ユリアと一緒にいたいと思った。


 それでも苦しむ人を見捨てられなかった。


 初代聖女もきっと同じだったのだろう。


「似てるね」


 ぽつりと零れる。


「何がだ?」


 ユリアが聞く。


 セリアは少しだけ笑った。


「私と初代聖女」


 誰も否定しなかった。


 十九歳で終わった人生。


 果たせなかった役目。


 次へ託された願い。


 あまりにも似ていたから。


 だからこそ。


 初代が辿り着けなかった場所へ。


 セレスが届かなかった答えへ。


 今度こそ辿り着きたいと思った。





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