繋がるもの
リシュリーが去った後。
中庭には静かな空気が戻っていた。
木々が風に揺れる。
葉擦れの音だけが響いていた。
「応援しますって何だったんだろうね」
セリアがぽつりと呟く。
「さあな」
ユリアは即答した。
本当に分かっていない顔だった。
セリアは思わず笑う。
「ユリアらしい」
「何だそれ」
納得していない声だった。
少しだけ笑う。
けれど、すぐに表情は曇った。
リシュリーの手首。
赤い痕。
国心環との接続。
残された時間。
考えないようにしても頭に浮かぶ。
「また考えてるな」
ユリアが言った。
「そんなに顔に出てる?」
「出てる」
即答だった。
セリアは苦笑する。
「リシュリーさんのこと考えてた」
「だろうな」
ユリアも表情を引き締めた。
問題は何も解決していない。
むしろ始まったばかりだ。
「接続を切る方法か」
ユリアが呟く。
「そんなものがあれば歴代聖女が苦労してない」
「うん」
その通りだった。
何百年も続いた仕組みだ。
誰も変えられなかった。
だから今も続いている。
「一つ気になることがある」
セリアが顔を上げる。
「何だ」
「白い糸」
ユリアは黙って続きを待った。
「セレスだった頃は、人から伸びる糸なんて見えなかった」
晩年になってようやく見えるようになった。
それまでは国心環の周囲や漂う糸だけだった。
「でも今は最初から見える」
「ああ」
「触れるだけで浄化できる」
「負荷もない」
そこがおかしい。
どう考えても。
「リシュリーさんの近くにあった糸も」
セリアは自分の手を見る。
昨日触れた糸。
あれだけ感触が違った。
「何かに繋がってる気がした」
ユリアの目が細くなる。
「接続か」
「たぶん」
まだ確証はない。
けれど。
あの違和感が頭から離れなかった。
「もし」
セリアはゆっくり言う。
「もしあれが国心環とリシュリーさんを繋いでいる糸だったら」
沈黙。
風が吹き抜ける。
ユリアは腕を組んだ。
「切れるのか」
小さく呟く。
セリアも同じことを考えていた。
もし。
あの糸が接続そのものなら。
もし。
自分だけが触れられるものなら。
もしかすると。
方法はあるのかもしれない。
「分からない」
正直に答える。
「でも確かめたい」
十五年前、方法はなかった。
だから死んだ。
でも今は違う。
見えるものがある。
できることがある。
だから。
諦めたくなかった。
「無茶はするなよ」
ユリアが言う。
「分かってる」
「分かってない顔だな」
即座に返される。
セリアは吹き出した。
「信用ないなぁ」
「お前は昔からそうだ」
昔。
その言葉に少しだけ胸が温かくなる。
十五年前。
セレスだった頃も。
ユリアは同じようなことを言っていた。
変わらない。
本当に。
少しも。
セリアはそっとユリアの肩へ頭を預けた。
ユリアは何も言わない。
追い払ったりもしない。
ただ隣にいる。
それだけで安心した。
「これからは」
セリアが小さく呟く。
「誰も聖女だからって死ななくていいようにしたい」
ユリアは静かに頷く。
「ああ」
短い返事。
けれど十分だった。
十五年前。
それは叶わなかった。
セレスは死んだ。
そして今。
リシュリーにも同じ運命が迫っている。
だから終わらせる。
この時代で。
ここで。
もう二度と。
聖女が命を削らなくて済むように。
二人は同じ未来を見つめていた。




