15年の理由
神官長室を出た後。
リシュリーは一人で廊下を歩いていた。
頭の中はまだ混乱している。
セレスのこと。
国心環のこと。
自分の寿命のこと。
知らなかったことばかりだった。
そして。
もう一つ。
ずっと引っ掛かっていることがあった。
◇
中庭には二人がいた。
木陰のベンチ。
セリアとユリアが並んで座っている。
特に会話をしているわけではない。
ただ穏やかな時間が流れていた。
「セリアさん、ユリアさん」
声を掛ける。
二人が振り返った。
「リシュリーさん」
「どうした」
ユリアが尋ねる。
リシュリーは少し迷った。
だが、聞かなければ先へ進めない気がした。
「一つ聞いてもいいですか?」
「はい」
セリアが頷く。
「ユリアさん」
「何だ」
「どうして今まで誰とも付き合わなかったんですか?」
沈黙。
ユリアの表情が固まる。
セリアも固まる。
分かりやすかった。
あまりにも。
「……やっぱり何かありますね」
リシュリーは苦笑する。
ユリアは露骨に視線を逸らした。
「別に」
「別にの顔じゃありません」
即座に返す。
ユリアが黙った。
その様子を見て。
リシュリーの中で一つの考えが形になる。
セレスが亡くなった後。
十五年。
ユリアはずっと一人だった。
誰とも付き合わず。
誰も隣へ置かなかった。
そしてセリアが現れてから少しずつ変わった。
さらに。
今日知った。
セリアはセレスだった。
そこまで考えれば。
答えは一つしかない。
「もしかして」
リシュリーの視線がセリアへ向く。
「付き合ってたんですか?」
沈黙。
ユリアは額を押さえた。
その反応だけで十分だった。
「やっぱり」
リシュリーは小さく笑う。
セリアが耳まで赤くなっている。
「えっと……」
視線が泳ぐ。
分かりやすすぎた。
「いつからなんですか?」
リシュリーは尋ねる。
セリアは観念したように息を吐いた。
「私が十六歳の時です」
「十六歳」
リシュリーは繰り返す。
そして止まる。
今のセリアは十五歳。
だから。
その数字はおかしい。
「……セレス様の時ですか」
セリアが小さく頷いた。
リシュリーは思わず空を見上げる。
なるほど。
本当にそうだったのか。
自分がセレスと出会った頃。
ユリアは既に傍にいた。
いつも当たり前のように。
護衛として。
そして恋人として。
「その頃にはもう付き合っていたんですね」
「はい」
「セレス様が亡くなるまで」
「はい」
静かな返事だった。
恋人だった期間は二年ほど。
けれど。
リシュリーが考えていたのはその後だった。
「十五年ですか」
ぽつりと呟く。
ユリアは何も言わない。
否定もしない。
それが答えだった。
十五年。
長い。
あまりにも長い。
誰とも付き合わず。
待ち続けていた。
「本当にいたんですね」
思わず呟く。
「何がだ」
「十五年も一人を想い続ける人です」
ユリアは顔をしかめた。
セリアは嬉しそうに笑っている。
その様子を見て。
リシュリーはようやく理解した。
勝てるとか、勝てないとか。
そういう話ではない。
最初から入る余地なんてなかった。
「敵いませんね」
ぽつりと零す。
少しだけ胸は痛む。
けれど、不思議と嫌な気持ちではなかった。
むしろ。
この二人には幸せになってほしいと思った。
「応援します」
「「え?」」
今度は二人が同時に固まった。
その反応がおかしくて。
リシュリーは声を出して笑った。
「ですから」
柔らかく微笑む。
「ちゃんと幸せになってくださいね」
十五年待った人と。
十五年かけて帰ってきた人なのだから。




