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15年の理由



 神官長室を出た後。


 リシュリーは一人で廊下を歩いていた。


 頭の中はまだ混乱している。


 セレスのこと。


 国心環のこと。


 自分の寿命のこと。


 知らなかったことばかりだった。


 そして。


 もう一つ。


 ずっと引っ掛かっていることがあった。


 



 中庭には二人がいた。


 木陰のベンチ。


 セリアとユリアが並んで座っている。


 特に会話をしているわけではない。


 ただ穏やかな時間が流れていた。


「セリアさん、ユリアさん」


 声を掛ける。


 二人が振り返った。


「リシュリーさん」


「どうした」


 ユリアが尋ねる。


 リシュリーは少し迷った。


 だが、聞かなければ先へ進めない気がした。


「一つ聞いてもいいですか?」


「はい」


 セリアが頷く。


「ユリアさん」


「何だ」


「どうして今まで誰とも付き合わなかったんですか?」


 沈黙。


 ユリアの表情が固まる。


 セリアも固まる。


 分かりやすかった。


 あまりにも。


「……やっぱり何かありますね」


 リシュリーは苦笑する。


 ユリアは露骨に視線を逸らした。


「別に」


「別にの顔じゃありません」


 即座に返す。


 ユリアが黙った。


 その様子を見て。


 リシュリーの中で一つの考えが形になる。


 セレスが亡くなった後。


 十五年。


 ユリアはずっと一人だった。


 誰とも付き合わず。


 誰も隣へ置かなかった。


 そしてセリアが現れてから少しずつ変わった。


 さらに。


 今日知った。


 セリアはセレスだった。


 そこまで考えれば。


 答えは一つしかない。


「もしかして」


 リシュリーの視線がセリアへ向く。


「付き合ってたんですか?」


 沈黙。


 ユリアは額を押さえた。


 その反応だけで十分だった。


「やっぱり」


 リシュリーは小さく笑う。


 セリアが耳まで赤くなっている。


「えっと……」


 視線が泳ぐ。


 分かりやすすぎた。


「いつからなんですか?」


 リシュリーは尋ねる。


 セリアは観念したように息を吐いた。


「私が十六歳の時です」


「十六歳」


 リシュリーは繰り返す。


 そして止まる。


 今のセリアは十五歳。


 だから。


 その数字はおかしい。


「……セレス様の時ですか」


 セリアが小さく頷いた。


 リシュリーは思わず空を見上げる。


 なるほど。


 本当にそうだったのか。


 自分がセレスと出会った頃。


 ユリアは既に傍にいた。


 いつも当たり前のように。


 護衛として。


 そして恋人として。


「その頃にはもう付き合っていたんですね」


「はい」


「セレス様が亡くなるまで」


「はい」


 静かな返事だった。


 恋人だった期間は二年ほど。


 けれど。


 リシュリーが考えていたのはその後だった。


「十五年ですか」


 ぽつりと呟く。


 ユリアは何も言わない。


 否定もしない。


 それが答えだった。


 十五年。


 長い。


 あまりにも長い。


 誰とも付き合わず。


 待ち続けていた。


「本当にいたんですね」


 思わず呟く。


「何がだ」


「十五年も一人を想い続ける人です」


 ユリアは顔をしかめた。


 セリアは嬉しそうに笑っている。


 その様子を見て。


 リシュリーはようやく理解した。


 勝てるとか、勝てないとか。


 そういう話ではない。


 最初から入る余地なんてなかった。


「敵いませんね」


 ぽつりと零す。


 少しだけ胸は痛む。


 けれど、不思議と嫌な気持ちではなかった。


 むしろ。


 この二人には幸せになってほしいと思った。


「応援します」


「「え?」」


 今度は二人が同時に固まった。


 その反応がおかしくて。


 リシュリーは声を出して笑った。


「ですから」


 柔らかく微笑む。


「ちゃんと幸せになってくださいね」


 十五年待った人と。


 十五年かけて帰ってきた人なのだから。



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