接続
翌日。
神官長の計らいで、セリアとユリアはリシュリーの巡礼へ同行していた。
もちろん表向きの理由は別だ。
セリアが記憶を取り戻したことも。
白い糸のことも。
誰も知らない。
リシュリーですら。
「今日は人が多いですね」
広場へ集まる人々を見ながらリシュリーが言う。
「祭りが近いからだろ」
ユリアが答える。
「なるほど」
リシュリーは納得したように頷いた。
その横顔を見ながら。
セリアは昨日から感じている違和感を探していた。
だが。
見えない。
昨日見た白い糸はどこにもなかった。
体調も悪そうに見えない。
顔色も良い。
笑顔も自然だ。
「どうかしましたか?」
視線に気付いたリシュリーが首を傾げる。
「いえ」
慌てて誤魔化す。
まだ何も分からない。
下手なことは言えなかった。
◇
巡礼は順調に進んだ。
祈りを捧げる。
人々へ言葉を掛ける。
怪我人や病人へ祝福を与える。
いつも通り。
何も変わらない。
最後の祈りの時間。
「……っ」
セリアは息を呑んだ。
見えた。
無数の白い糸。
その一部がリシュリーに絡まっている。
十五年前。
何度も見た光景だった。
「セリア」
ユリアも気付いたらしい。
小さな声が聞こえる。
セリアは答えられなかった。
視線を離せない。
まるで血管のように。
呼吸のように。
脈打っていた。
そして。
その中に。
一つだけ色の違うものが見えた。
白ではない。
薄い灰色。
穢れ。
負荷。
かつてセレスが引き受けていたもの。
「そんな……」
思わず声が漏れる。
リシュリーは気付かない。
今も人々へ微笑んでいる。
だが。
確かに見えた。
ほんのわずか。
けれど確実に。
◇
巡礼が終わる。
人払いをしてから。
セリアはリシュリーへ近付いた。
「リシュリーさん」
「はい?」
振り返る。
笑顔だった。
いつも通りの。
だが。
セリアの目は別の場所を見ていた。
手首。
袖の奥。
そこに。
うっすらと赤い痕が浮かんでいる。
見間違いではなかった。
胸が冷える。
知っている。
忘れるはずがない。
これは。
自分が死ぬまで身体に刻まれていた痕だ。
「セリアさん?」
不安そうな声。
セリアは返事ができない。
代わりに。
隣へ立ったユリアが静かに言った。
「神官長を呼ぶ」
その声は低かった。
十五年前を知る者の声だった。
そしてセリアは確信する。
間違いない。
リシュリーは自分と同じ道を歩き始めている。




