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 翌日。



 神官長の計らいで、セリアとユリアはリシュリーの巡礼へ同行していた。


 もちろん表向きの理由は別だ。


 セリアが記憶を取り戻したことも。


 白い糸のことも。


 誰も知らない。


 リシュリーですら。


「今日は人が多いですね」


 広場へ集まる人々を見ながらリシュリーが言う。


「祭りが近いからだろ」


 ユリアが答える。


「なるほど」


 リシュリーは納得したように頷いた。


 その横顔を見ながら。


 セリアは昨日から感じている違和感を探していた。


 だが。


 見えない。


 昨日見た白い糸はどこにもなかった。


 体調も悪そうに見えない。


 顔色も良い。


 笑顔も自然だ。


「どうかしましたか?」


 視線に気付いたリシュリーが首を傾げる。


 

「いえ」


 慌てて誤魔化す。


 まだ何も分からない。


 下手なことは言えなかった。



 巡礼は順調に進んだ。


 祈りを捧げる。


 人々へ言葉を掛ける。


 怪我人や病人へ祝福を与える。


 いつも通り。


 何も変わらない。


 

 最後の祈りの時間。


 


「……っ」


 セリアは息を呑んだ。


 見えた。


 無数の白い糸。


 その一部がリシュリーに絡まっている。


 十五年前。


 何度も見た光景だった。


「セリア」


 ユリアも気付いたらしい。


 小さな声が聞こえる。


 セリアは答えられなかった。


 視線を離せない。


 まるで血管のように。


 呼吸のように。


 脈打っていた。


 そして。


 その中に。


 一つだけ色の違うものが見えた。


 白ではない。


 薄い灰色。


 穢れ。


 負荷。


 かつてセレスが引き受けていたもの。


「そんな……」


 思わず声が漏れる。


 リシュリーは気付かない。


 今も人々へ微笑んでいる。


 だが。


 確かに見えた。


 ほんのわずか。


 けれど確実に。



 


 巡礼が終わる。


 人払いをしてから。


 セリアはリシュリーへ近付いた。


「リシュリーさん」


「はい?」


 振り返る。


 笑顔だった。


 いつも通りの。


 だが。


 セリアの目は別の場所を見ていた。


 手首。


 袖の奥。


 そこに。


 うっすらと赤い痕が浮かんでいる。


 見間違いではなかった。


 胸が冷える。


 知っている。


 忘れるはずがない。


 これは。


 自分が死ぬまで身体に刻まれていた痕だ。


「セリアさん?」


 不安そうな声。



 セリアは返事ができない。


 代わりに。


 隣へ立ったユリアが静かに言った。


「神官長を呼ぶ」


 その声は低かった。


 十五年前を知る者の声だった。


 そしてセリアは確信する。


 間違いない。


 リシュリーは自分と同じ道を歩き始めている。




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