見覚えのあるこうけい
リシュリーと別れた後。
セリアとユリアは神官長室へ向かっていた。
途中から二人とも無言だった。
先に口を開いたのはユリアだった。
「何かあったか」
セリアは少し迷う。
「分かりません」
正直な答えだった。
「でも」
自分の手を見る。
白い糸に触れた右手。
「少し変でした」
ユリアは続きを待った。
「いつもの糸じゃない気がしたんです」
「どんな風にだ」
「説明が難しいです」
本当に難しかった。
消えた。
確かに消えた。
それはいつもと同じ。
なのに。
一瞬だけ。
何か別のものに触れた気がした。
そんな感覚だけが残っている。
「気のせいかもしれません」
「お前がそう言う時は大抵気のせいじゃない」
セリアは思わず笑う。
「信用されてますね」
「そうじゃない」
「違うんですか?」
「嫌な予感はよく当たる」
ユリアは真顔だった。
セリアは苦笑する。
否定できなかった。
神官長室へ到着する。
扉を叩く。
「どうそ」
中へ入る。
神官長は書類へ目を通していた。
「お呼びでしょうか」
「ああ」
神官長は顔を上げる。
「実は少し気になる報告がありまして」
「報告?」
「最近、巡礼先で体調不良を訴える方が増えています」
セリアは首を傾げた。
季節の変わり目だ。
珍しいことではない。
だが。
神官長はそう思っていないらしい。
「共通点があるんです」
「共通点?」
「皆、回復が遅い」
部屋が静かになる。
ユリアが眉をひそめた。
神官長は続ける。
「重症ではありません」
「ですが妙なのです」
「妙?」
「傷が治りにくい」
「熱が下がりにくい」
「疲労が抜けにくい」
どれも些細な症状だった。
だが。
神官長は机の上へ紙を並べる。
「数が多すぎます」
セリアは紙へ視線を落とす。
巡礼地。日時。症状。
確かに多い。
偶然とは思えない程度に。
「国心環ですか?」
気付けば口にしていた。
神官長は静かに頷く。
「私もそう考えています」
ユリアが腕を組む。
「リシュリーは?」
「まだ気付いていないでしょう」
神官長は答えた。
「本人に自覚症状はありません」
その言葉に。
セリアの脳裏へ先ほどの光景が浮かぶ。
リシュリー。
肩の近くを漂っていた白い糸。
そして。
触れた時の違和感。
「……」
嫌な予感がする。
胸の奥がざわつく。
十五年前。
似たようなことがあった。
最初は小さな異変だった。
深刻に考えなかった。
だから。
気付いた時には遅かった。
「神官長」
セリアが顔を上げる。
「リシュリーを診せてください」
神官長の表情がわずかに変わる。
「何か気付きましたか」
「まだ分かりません」
本当に分からない。
ただ。
確認したい。
どうしても。
あの違和感の正体を。
確かめなければならない気がした。




