違和感
セレスの記憶を取り戻してから数日。
神殿はいつも通りだった。
巡礼者が訪れ。
神官たちが働き。
祈りの声が響く。
何も変わらない。
変わったのはセリアだけだった。
「また考え事か」
隣を歩くユリアが言う。
「少しだけです」
「少しじゃない顔してるぞ」
セリアは苦笑した。
思い出した記憶は大きかった。
自分が死んだ日のこと。
国心環のこと。
そしてユリアのこと。
考えない方が難しい。
「後悔してるか」
不意に聞かれる。
「何をですか?」
「思い出したことを」
セリアは少し考えた。
そして首を横に振る。
「してません」
辛い記憶もある。
苦しい記憶もある。
それでも。
知らないままの方が嫌だった。
「そうか」
ユリアはそれ以上聞かなかった。
しばらく歩く。
すると前方から声が聞こえた。
「セリアさん! ユリアさん!」
リシュリーだった。
明るい声。
元気そうな様子。
「こんにちは」
「こんにちは!」
リシュリーは嬉しそうに笑う。
「神官長が探してましたよ」
「何かあったんですか?」
「さあ?」
首を傾げる。
「でも急ぎじゃなさそうでした」
その時だった。
リシュリーの肩の近く。
白い糸がふわりと漂っているのが見えた。
「あ」
思わず声が漏れる。
「どうしました?」
リシュリーが不思議そうに首を傾げた。
セリアは反射的に手を伸ばす。
指先が白い糸へ触れる。
ふっと消えた。
いつも通り。
そのはずだった。
「?」
リシュリーは何も見えていない。
ただセリアが空中へ手を伸ばしたようにしか見えなかった。
「何かいました?」
「いえ」
セリアは慌てて手を引っ込める。
「虫かと思って」
「ああ」
リシュリーは納得したように頷いた。
だが。
「……?」
違和感。
指先に何かが残る。
今までの糸と少し違った。
ほんの一瞬。
糸の先が見えた気がした。
どこかへ続いているような。
誰かと繋がっているような。
そんな感覚。
「セリア」
ユリアが小さく呼ぶ。
異変に気付いたらしい。
セリアは小さく首を横に振った。
今は何とも言えない。
気のせいかもしれない。
そう思う。
だが胸の奥に引っ掛かりが残った。
セレスだった頃。
こんな感覚があった気がする。
いつだっただろう。
思い出せない。
リシュリーはそんな二人の様子に気付かず笑っている。
「では、あたしはこれで」
小さく手を振る。
セリアも振り返した。
去っていく背中を見送りながら。
胸騒ぎだけが消えなかった。




