セレスとセリア
しばらく二人は何も話さなかった。
繋いだ手だけが残る。
温かい。
懐かしい。
それだけで十分な気もした。
けれど。
セリアはふと気付く。
「……あ」
「何だ」
ユリアが視線を向ける。
セリアは少し困った顔になった。
「私」
「うん」
「セレスでもあるけど」
そこで言葉を切る。
頭の中を整理するように。
「セリアでもある」
ユリアは黙った。
その言葉を待っていた気がした。
記憶は戻った。
確かに戻った。
セレスとして生きた十八年間。
全部思い出した。
だが。
この十五年間が消えたわけではない。
村で育ったこと。
神殿へ通ったこと。
リシュリーと話したこと。
神官長と過ごした時間。
ユリアへ恋をしたこと。
全部。
全部セリアの人生だ。
「変な感じです」
セレス――セリアは苦笑した。
「昔のことも覚えてるのに」
「……」
「セリアとして過ごした時間も、ちゃんと大事なんです」
ユリアは小さく頷く。
「そうだろうな」
否定しない。
当たり前のように受け入れる。
それが少し嬉しかった。
「だから」
セリアは少し考える。
「セレスに戻った感じじゃないんですよね」
前の自分へ戻ったわけじゃない。
失われた十五年を取り戻したわけでもない。
もっと不思議な感覚だった。
セレスとセリア。
どちらかじゃない。どちらも自分だ。
「私は私です」
それが一番近い答えだった。
ユリアは少しだけ目を細める。
「そうだな」
静かな声だった。
「お前はお前だ」
セリアは笑った。
昔なら。
セレスとして認めてほしかったかもしれない。
でも今は違う。
セリアとして積み重ねた時間も大切だった。
だから。
「ユリア」
「ああ」
「今の私も好き?」
ユリアが固まった。
数秒。
本当に数秒。
完全に固まった。
「何だ急に」
「気になったので」
気になったのでじゃない。
ユリアは額を押さえる。
セレスの記憶が戻ったのに。
こういうところはセリアのままだった。
「昔の私じゃなくて」
「……」
「今の私」
真っ直ぐ見てくる。
逃げ場がない。
ユリアはため息を吐いた。
「その質問はずるい」
「答えてください」
昔もこうだった。
大事な時だけ妙に逃がさない。
だが。
昔より少し強くなっている気がする。
セリアとして生きた十五年の分だけ。
ユリアは視線を逸らした。
そして。
「好きじゃなきゃ付き合わん」
ぶっきらぼうに言う。
セリアが固まった。
今度はセリアの番だった。
「……」
「……」
沈黙。
先ほどまでの勢いはどこへ行ったのか。
顔が赤い。
耳まで赤い。
「今のずるくないですか?」
「知らん」
「ずるいです」
「知らん」
ユリアは視線を逸らした。
セリアは口元を押さえる。
嬉しそうだった。
本当に。
どうしようもないくらい。
ユリアはそんな様子を見ながら小さく息を吐く。
十五年前。
失ったと思った。
もう二度と会えないと思った。
だから今ここにいることが、まだ少し信じられなかった。
繋いだ手に力が入る。
セリアも握り返した。
言葉はいらなかった。
今だけは。
それだけで十分だった。




