好きなところ
「ユリア」
「なんだ」
「暇」
昼食後だった。
珍しく予定が空いている。
セレスは机に突っ伏しながら、やることがないという顔をしていた。
「本を読め」
「さっき読んだ」
「寝ろ」
「さっき寝た」
「じゃあ仕事しろ」
「休みの日に?」
「暇なんだろ」
「そうだけど」
セレスはむぅ、と頬を膨らませた。
自分で言っておいて何だが、それは違う気がする。
ユリアはそんな恋人を見ながら茶を飲んだ。
平和だった。
とても。
「ねえ」
「なんだ」
「質問していい?」
「内容による」
「最近そればっかり」
「学習した」
セレスは少し笑った。
確かに以前のユリアなら何も聞かずに頷いていた。
多少は成長したらしい。
「簡単な質問」
「言ってみろ」
「私の好きなところは?」
沈黙。
ユリアが固まった。
セレスは満足そうだった。
予想通りの反応だったから。
「ほら」
「急だな」
「答えて」
「嫌だ」
「なんで」
「恥ずかしい」
珍しく正直だった。
セレスは吹き出した。
「あははっ」
「笑うな」
「だって」
「笑うな」
耳が少し赤い。
珍しいものを見た。
セレスは机に肘をつきながらユリアを眺める。
「言えない?」
「言える」
「じゃあ言って」
「嫌だ」
「言えないじゃん」
「言える」
面倒くさい。
だが面白い。
セレスは完全に楽しんでいた。
「じゃあ私が先に言う」
「やめろ」
「なんで」
「嫌な予感がする」
「失礼」
セレスは咳払いをした。
そして真面目な顔になる。
「ユリアの好きなところ」
「やめろ」
「聞いて」
「聞きたくない」
「聞いて」
全然聞いてくれない。
だがセレスも引かなかった。
「優しいところ」
ひとつ。
「真面目なところ」
ふたつ。
「強いところ」
みっつ。
「嘘をつかないところ」
よっつ。
「私のことを大事にしてくれるところ」
いつつ。
ユリアは額を押さえた。
居心地が悪い。
非常に悪い。
「あと」
「まだあるのか」
「あるよ」
当然だった。
「笑うと格好いい」
ユリアが固まる。
「滅多に笑わないけど」
「もういい」
「だめ」
「十分だ」
「まだ半分」
「半分?」
どれだけあるんだ。
ユリアは本気で怖くなった。
セレスは楽しそうだった。
「髪も好き」
「髪?」
「綺麗だから」
水色の髪。
子供の頃から変わらない。
珍しい色ではある。
「瞳も好き」
「それも聞いた」
「声も好き」
「もういい」
「顔も好き」
「セレス」
「全部好き」
言い切った。
満面の笑みで。
ユリアは沈黙する。
どうしようもない。
勝てる気がしない。
「はい」
セレスが身を乗り出した。
「次」
「何がだ」
「ユリアの番」
「ない」
「ある」
「ない」
「ある」
押し問答が始まる。
しばらく続いた。
そして負けたのはユリアだった。
いつも通りである。
「……優しいところ」
ぽつり。
小さな声だった。
セレスの目が輝く。
「うん」
「頑張るところ」
「うん」
「人の話をちゃんと聞くところ」
「うん」
嬉しそうだった。
犬なら尻尾を振っている。
そんな顔だった。
「あと」
ユリアは少し考える。
本当はたくさんある。
でも言葉にするのは苦手だ。
「笑顔」
セレスが瞬きをする。
「笑顔?」
「ああ」
ユリアは頷く。
「好きだ」
静かな声だった。
飾らない。
真っ直ぐな言葉だった。
セレスは少しだけ目を見開く。
それから。
ゆっくり笑った。
いつものように。
柔らかく。
優しく。
「そっか」
照れたように言う。
耳が少し赤い。
ユリアはその顔を見て思う。
やっぱり好きだな、と。
「ねえ」
「なんだ」
「嬉しい」
セレスが言う。
「そうか」
「うん」
そして。
少しだけ悪戯っぽく笑った。
「もう一回言って」
「嫌だ」
「なんで」
「一回で十分だ」
「ケチ」
「そうかもな」
ユリアは茶を飲む。
セレスはまだ何か言いたそうだった。
だが今はこれくらいでいい。
たぶん。
全部言ってしまうには、まだ午後の時間が足りなかった。




