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最初の約束



 恋人になった翌日。


 何かが大きく変わるわけではなかった。


 神殿はいつも通り。


 神官達もいつも通り。


 中庭を吹く風も変わらない。


 変わったのは。


「おはようございます!」


 セリアだけだった。


 朝から妙に機嫌がいい。


 というより隠す気がない。


 ユリアは思わずため息を吐いた。


「声が大きい」


「嬉しいので」


「そうか」


 全く隠さない。


 少しは隠せ。


 そう思うが言わない。


 たぶん無理だからだ。


 


 セリアはユリアの隣へ腰を下ろした。


 いつもの席。


 いつもの距離。


 昨日までと何も変わらない。


 だが。


 本人達だけは違いを知っている。


 


「ユリアさん」


「何だ」


「恋人ですね」


「朝からそれか」


 セリアは嬉しそうに笑う。


 本当に嬉しそうだった。


 その顔を見ると。


 勢いで返事をしたわけではないと思えて少し安心する。


 


 いや。


 勢いもあった。


 確実にあった。


 だが。


 後悔はしていなかった。


 


「そういえば」


 セリアが何かを思い出したように言う。


「約束」


「何だ」


「手を出さないって言いましたよね」


 ユリアは嫌な予感がした。


「言ったな」


「どこまでですか?」


「何がだ」


「どこまで恋人なんですか?」


 朝からする話ではない。


 本当に。


 


 セリアは真面目だった。


 真面目な顔で聞いている。


 だから余計に困る。


 


「手を繋ぐくらいまでだ」


「昨日も聞きました」


「なら聞くな」


「確認です」


 面倒だった。


 


 セリアは少し考える。


「手を繋ぐ」


「ああ」


「腕を組む」


「駄目だ」


「早い」


「早くない」


 即答だった。


 


「抱きつく」


「駄目だ」


「即答」


「昨日やっただろ」


 あれは心臓に悪かった。


 本当に。


 


 セリアは少し笑う。


 からかっている。


 絶対にからかっている。


 


「じゃあ」


 セリアは自分の手を見る。


 そして。


 ユリアの手を見る。


 


「繋ぎます?」


 


 ユリアが固まった。


 


「今?」


「今です」


「ここで?」


「ここです」


 何故そうなる。


 


 セリアは期待した目で見てくる。


 逃げ場がない。


 


「……」


 


 恋人になった。


 昨日。


 自分で言った。


 


 手を繋ぐくらいまで。


 


 自分で言った。


 


「ユリアさん」


「分かった」


 根負けした。


 本当に根負けだった。


 


 セリアがぱっと笑う。


 


 ユリアはゆっくり手を差し出した。


 


 セリアもそっと手を重ねる。


 


 小さな手だった。


 思っていたより。


 


「……」


 


 ユリアは少し複雑な気持ちになる。


 やはり若い。


 三年後でも若い。


 十年後でも年下だ。


 


 だから。


 守らなければならないと思う。


 


 その気持ちは変わらない。


 


「ユリアさん」


「何だ」


「手、冷たいです」


「お前が温かいだけだ」


 セリアは嬉しそうに笑った。


 


 ただ手を繋いだだけ。


 それだけだった。


 


 けれど。


 セリアにとっては十分だった。


 ユリアにとっても。


 今はまだ。


 これでいい。


 急ぐ必要はない。


 二人には。


 まだたくさんの時間があるのだから。



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