返事
手遅れだった。
そう思ったからといって、答えが出るわけではない。
ユリアはベンチへ背を預ける。
隣ではセリアが機嫌良さそうに空を見上げていた。
少し前まで真剣な顔で告白していたとは思えない。
「お前な」
「はい」
「何でそんなに機嫌がいい」
セリアは首を傾げた。
「駄目ですか?」
「そうは言ってない」
「じゃあ大丈夫です」
大丈夫ではない。
少なくともユリアの中では。
年齢のこと。
時間停止のこと。
セレスのこと。
考えることはいくらでもある。
だが。
目の前の少女は全部飛び越えてくる。
「ユリアさん」
「何だ」
「一つ聞いてもいいですか」
嫌な予感がした。
「聞くだけならな」
「私のこと嫌いじゃないですよね?」
ユリアは額を押さえた。
「お前は極端なんだ」
「否定しないんですね」
セリアの顔が明るくなる。
分かりやすすぎる。
「嫌いなら」
セリアが続ける。
「とっくに追い払ってますよね」
反論できなかった。
事実だったからだ。
最初の頃ならともかく、今は違う。
隣にいることが当たり前になっている。
それが問題だった。
「そういえば」
セリアがふと思い出したように言う。
「北門にいましたよね」
ユリアの眉がわずかに動く。
「ああ」
「避けてました?」
「……」
「避けてましたよね?」
「違う」
短く返す。
セリアはじっと見上げてくる。
「じゃあ何だったんですか」
ユリアは少し黙った。
あの頃のことを思い出す。
距離を取ろうとした。
関わり過ぎないようにしようとした。
それが正しいと思った。
「距離を取ってた」
セリアが瞬きをする。
「同じでは?」
「違う」
「どう違うんですか」
面倒な質問だった。
だが。
逃げても仕方がない。
「お前が気になったからだ」
セリアが固まる。
ユリアは続けた。
「だから距離を取ろうとした」
「……」
「失敗したがな」
小さく息を吐く。
本当に失敗だった。
距離を取るつもりだった。
なのに気付けば毎日顔を合わせている。
隣にいる。
話している。
笑っている顔を見ると安心する。
「ユリアさん」
セリアの声は少しだけ震えていた。
「それって」
「勘違いするな」
即座に遮る。
「オレはまだお前の歳を気にしてる」
それは本音だった。
「三年後でも」
「気にする」
「年齢差も?」
「ああ」
セリアは少し考える。
そして笑った。
「じゃあ私が気にしない分まで気にしてください」
「意味が分からん」
「私は気にしません」
言い切る。
迷いなく。
「でも」
セリアは真っ直ぐユリアを見る。
「ユリアさんが気にするのも分かります」
ユリアは黙った。
「だから待ちます」
以前と同じ言葉。
だが少し違う。
「でも諦めません」
その言葉に嘘はなかった。
ユリアはしばらく空を見上げる。
逃げ続けるのは簡単だ。
答えを先延ばしにすることもできる。
だが。
それは卑怯な気がした。
「セリア」
「はい」
名前を呼ぶ。
セリアが嬉しそうに返事をする。
「一つ約束しろ」
「何ですか?」
「無茶はするな」
「はい」
「一人で抱え込むな」
「努力します」
「努力じゃなくて守れ」
セリアが笑う。
「善処します」
「おい」
全然分かっていない。
だが。
その顔を見ていると、怒る気も失せる。
ユリアは深く息を吐いた。
そして。
「……付き合うか」
セリアが固まった。
今度は本当に。
「え?」
「聞こえなかったなら忘れろ」
「聞こえました!」
勢いよく立ち上がる。
「聞こえました!」
「二回言うな」
セリアは口元を押さえた。
信じられないという顔をしている。
嬉しそうで。
泣きそうで。
笑いそうで。
忙しい。
「ただし」
ユリアが釘を刺す。
「勘違いするな」
セリアは姿勢を正した。
「はい」
「お前は未成年だ」
「はい」
「だから手は出さん」
「はい」
「手を繋ぐくらいまでだ」
セリアは数秒考えた。
そして。
「恋人ですね」
嬉しそうに笑った。
ユリアは額を押さえる。
「そうなるな」
「恋人です」
確認するように呟く。
本当に嬉しそうだった。
その顔を見て。
ユリアは小さく息を吐く。
面倒なやつだ。
本当に。
どうしようもなく。
だが。
その面倒さを嫌だとは、もう思えなかった。




