↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/145

返事



 手遅れだった。


 そう思ったからといって、答えが出るわけではない。


 ユリアはベンチへ背を預ける。


 隣ではセリアが機嫌良さそうに空を見上げていた。


 少し前まで真剣な顔で告白していたとは思えない。


「お前な」


「はい」


「何でそんなに機嫌がいい」


 セリアは首を傾げた。


「駄目ですか?」


「そうは言ってない」


「じゃあ大丈夫です」


 大丈夫ではない。


 少なくともユリアの中では。


 年齢のこと。


 時間停止のこと。


 セレスのこと。


 考えることはいくらでもある。


 だが。


 目の前の少女は全部飛び越えてくる。


「ユリアさん」


「何だ」


「一つ聞いてもいいですか」


 嫌な予感がした。


「聞くだけならな」


「私のこと嫌いじゃないですよね?」


 ユリアは額を押さえた。


「お前は極端なんだ」


「否定しないんですね」


 セリアの顔が明るくなる。


 分かりやすすぎる。


「嫌いなら」


 セリアが続ける。


「とっくに追い払ってますよね」


 反論できなかった。


 事実だったからだ。


 最初の頃ならともかく、今は違う。


 隣にいることが当たり前になっている。


 それが問題だった。


「そういえば」


 セリアがふと思い出したように言う。


「北門にいましたよね」


 ユリアの眉がわずかに動く。


「ああ」


「避けてました?」


「……」


「避けてましたよね?」


「違う」


 短く返す。


 セリアはじっと見上げてくる。


「じゃあ何だったんですか」


 ユリアは少し黙った。


 あの頃のことを思い出す。


 距離を取ろうとした。


 関わり過ぎないようにしようとした。


 それが正しいと思った。


「距離を取ってた」


 セリアが瞬きをする。


「同じでは?」


「違う」


「どう違うんですか」


 面倒な質問だった。


 だが。


 逃げても仕方がない。


「お前が気になったからだ」


 セリアが固まる。


 ユリアは続けた。


「だから距離を取ろうとした」


「……」


「失敗したがな」


 小さく息を吐く。


 本当に失敗だった。


 距離を取るつもりだった。


 なのに気付けば毎日顔を合わせている。


 隣にいる。


 話している。


 笑っている顔を見ると安心する。


「ユリアさん」


 セリアの声は少しだけ震えていた。


「それって」


「勘違いするな」


 即座に遮る。


「オレはまだお前の歳を気にしてる」


 それは本音だった。


「三年後でも」


「気にする」


「年齢差も?」


「ああ」


 セリアは少し考える。


 そして笑った。


「じゃあ私が気にしない分まで気にしてください」


「意味が分からん」


「私は気にしません」


 言い切る。


 迷いなく。


「でも」


 セリアは真っ直ぐユリアを見る。


「ユリアさんが気にするのも分かります」


 ユリアは黙った。


「だから待ちます」


 以前と同じ言葉。


 だが少し違う。


「でも諦めません」


 その言葉に嘘はなかった。


 ユリアはしばらく空を見上げる。


 逃げ続けるのは簡単だ。


 答えを先延ばしにすることもできる。


 だが。


 それは卑怯な気がした。


「セリア」


「はい」


 名前を呼ぶ。


 セリアが嬉しそうに返事をする。


「一つ約束しろ」


「何ですか?」


「無茶はするな」


「はい」


「一人で抱え込むな」


「努力します」


「努力じゃなくて守れ」


 セリアが笑う。


「善処します」


「おい」


 全然分かっていない。


 だが。


 その顔を見ていると、怒る気も失せる。


 ユリアは深く息を吐いた。


 そして。


「……付き合うか」


 セリアが固まった。


 今度は本当に。


「え?」


「聞こえなかったなら忘れろ」


「聞こえました!」


 勢いよく立ち上がる。


「聞こえました!」


「二回言うな」


 セリアは口元を押さえた。


 信じられないという顔をしている。


 嬉しそうで。


 泣きそうで。


 笑いそうで。


 忙しい。


「ただし」


 ユリアが釘を刺す。


「勘違いするな」


 セリアは姿勢を正した。


「はい」


「お前は未成年だ」


「はい」


「だから手は出さん」


「はい」


「手を繋ぐくらいまでだ」


 セリアは数秒考えた。


 そして。


「恋人ですね」


 嬉しそうに笑った。


 ユリアは額を押さえる。


「そうなるな」


「恋人です」


 確認するように呟く。


 本当に嬉しそうだった。


 その顔を見て。


 ユリアは小さく息を吐く。


 面倒なやつだ。


 本当に。


 どうしようもなく。


 だが。


 その面倒さを嫌だとは、もう思えなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。