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ユリアの秘密



 中庭に風が吹く。


 木々が揺れる音だけが聞こえていた。


 セリアはユリアを見つめている。


 ユリアは小さく息を吐いた。


「前に年齢を聞いただろ」


「言いましたね」


「正確には答えてない」


 セリアが首を傾げる。


 ユリアは少し視線を逸らした。


「オレは見た目通りの年齢じゃない」


「……?」


「時間が止まってる」


 静かな声だった。


 セリアは数秒黙った。


 意味が分からなかった。


「時間が止まってる?」


「ああ」


 ユリアは頷く。


「十五年前からだ」


 セリアが目を見開く。


「十五年」


「そうだ」


 風が吹く。


 しばらく沈黙が落ちた。


 やがて。


 セリアは指を折りながら考え始めた。


「えっと」


「……」


「見た目は二十歳前後」


「ああ」


「十五年前から時間が止まってる」


「ああ」


「つまり」


 セリアは真剣な顔で計算する。


「三十代後半?」


「そうなる」


 ユリアは頷いた。


 ようやく伝わった。


 だから。


 次の言葉を待つ。


 驚くか。


 引くか。


 困るか。


 どれかだと思っていた。


「年齢は関係ないです」


「は?」


 即答だった。


 ユリアは思わず聞き返した。


「いや、関係あるだろ」


「ありません」


「ある」


「ありません」


 即答で返される。


 ユリアは頭を抱えたくなった。


「お前な」


「だって好きですし」


 あっさり言う。


 呼吸をするみたいに。


 何でもないことのように。


「そういう話じゃない」


「そういう話です」


 全く引かない。




 セリアは少し考える。


 そして。


「正直に言いますね」


「やめろ」


「今から付き合いたいくらいです」


 やめなかった。


 ユリアは額を押さえる。


 本当にやめろ。


「でも」


 セリアは続ける。


「ユリアさんが絶対気にすると思ったので」


 少しだけ笑った。


「成人したらって言ったんです」


 ユリアは言葉を失う。


 それは予想していなかった。


 セリア自身は最初から気にしていなかったのだ。


 年齢も。


 見た目も。


 時間が止まっていることも。


 全部。


「私は」


 セリアは真っ直ぐユリアを見る。


「ユリアさんが好きなんです」


 逃げ場のない言葉だった。




「三十代でも」


「……」


「四十代でも」


「勝手に増やすな」


「五十代でも」


「増やすな」


 真顔で言われる。



 セリアは楽しそうに笑った。


 ユリアは深くため息を吐く。


 本当に。


 面倒なやつだ。




 だが。


 その面倒さを嫌だと思えない自分がいる。


 それが一番厄介だった。



「返事は急ぎません」


 セリアが言う。


 先ほどまでの勢いが少しだけ和らぐ。


「でも諦めません」


 そこだけは譲らないらしい。



 ユリアは空を見上げた。


 青空だった。


 昔なら。


 こんなふうに誰かに迫られることはなかった。


 いや。


 あったかもしれない。


 ただ。


 今ほど困らなかった。


「……面倒だな」


 ぽつりと呟く。


 セリアは嬉しそうに笑った。


「知ってます」


 全然分かっていない。


 たぶんこれからも。


 分からないのだろう。


 それでも。


 ユリアは追い払えなかった。


 もうとっくに。


 手遅れだったから。




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