特別
セリアが帰った後。
中庭は静かになっていた。
さっきまで聞こえていた声もない。
風が木々を揺らしている。
それだけだった。
ユリアはベンチへ腰掛ける。
休憩時間はまだ残っていた。
本来なら静かな方が落ち着く。
一人の方が楽だ。
昔からそうだった。
今も変わらない。
そのはずだった。
「……」
何となく視線を上げる。
中庭を見る。
誰もいない。
当たり前だった。
さっき帰ったのだから。
それなのに。
少しだけ物足りなさを感じる。
巡礼中もそうだった。
市場で。
宿で。
休憩中に。
何度も思い出した。
真面目な顔。
少し拗ねた顔。
騒がしい声。
帰ってきた時もそうだ。
神殿へ着いて。
真っ先に見つけたのはセリアだった。
探したわけではない。
たまたまだ。
そう思っている。
だが。
姿を見た瞬間に安心したのも事実だった。
「……」
小さく息を吐く。
面倒だ。
本当に面倒だった。
考えたくない。
だが考えてしまう。
お土産を渡した時のことを思い出す。
本当に嬉しそうだった。
ただの焼き菓子だ。
高価な物でもない。
それなのに。
まるで宝物を受け取ったみたいな顔をしていた。
そして。
その顔を見て。
自分は少し安心していた。
「……」
認めたくはない。
だが。
喜んでいる姿を見ると嬉しい。
それは事実だった。
セレスを思い出す。
昔もそうだった。
笑っている顔を見るのが好きだった。
嬉しそうな顔を見ると安心した。
だから。
今も同じなのかもしれない。
そう考えて。
違和感を覚える。
違う。
少し違う。
セリアを見る時。
セレスを見ているわけではない。
最近は特にそうだった。
騒がしくて。
よく笑って。
遠慮がなくて。
全然違う。
なのに。
気付けば探している。
いなければ気になる。
帰ってきてほっとした。
それはセレスとは関係なく。
セリア自身に向けた感情だった。
「……そうか」
小さく呟く。
ようやく一つだけ分かった。
好きかどうかは分からない。
そんなことはまだ考えたくない。
だが。
セリアは特別だ。
少なくとも今の自分にとって。
それだけは認めざるを得なかった。
「ユリア殿」
不意に声がした。
振り返る。
神官長だった。
「何だ」
「いえ」
神官長は穏やかに微笑む。
「少し難しい顔をされていたので」
「別に」
即答だった。
神官長は苦笑する。
その反応で十分だった。
「そうですか」
それ以上は聞かない。
神官長はそのまま立ち去る。
ユリアも呼び止めなかった。
中庭に風が吹く。
木々が揺れる。
静かな午後だった。
けれど。
その静けさはもう以前と同じではない。
ユリアは空を見上げる。
そして。
無意識に思う。
明日も来るだろうな。
誰のことか。
考えるまでもなかった。




