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約束の土産



 巡礼から帰ってきたその日の午後。


 神殿はまだ少し慌ただしかった。


 荷物の整理。


 巡礼報告。


 神官達が忙しそうに行き来している。


 そんな中。


「ユリアさん!」


 聞き慣れた声が響いた。


 ユリアは振り返る。


 予想通りだった。


 セリアがこちらへ駆けてくる。



「走るな」


 第一声がそれだった。


「転んでません」


「まだな」


「ひどいです」


 セリアは頬を膨らませる。


 ユリアは小さく息を吐いた。


 二週間ぶりだというのに。


 やり取りはいつも通りだった。


「それで」


 セリアがじっと見上げてくる。


「何だ」


「忘れてませんよね?」


 期待に満ちた目だった。


 ユリアは少しだけ眉をひそめる。


「覚えてたのか」


「当然です」


 胸を張る。


 その姿に思わず呆れる。


 ユリアは懐から小さな紙袋を取り出した。


「ほら」


 差し出す。


 セリアが固まった。


「え」


「土産」


 短く告げる。




 恐る恐る受け取る。


 中を見る。


 焼き菓子だった。


 ふわりと甘い香りが漂う。


「本当に買ってきてくれたんですか?」


「約束したからな」


 ユリアは平然と答える。


 だが。


 セリアの顔はみるみる明るくなった。


「ありがとうございます!」


 本当に嬉しそうだった。


 高価な物ではない。


 特別な品でもない。


 ただの焼き菓子。


 それなのに。


 宝物でももらったみたいな顔をしている。


「そんなに嬉しいか」


「嬉しいです」


 即答だった。


「そうか」


 ユリアは短く返す。


 それだけ。


 それだけなのに。


 少しだけ肩の力が抜けた。


「食べてもいいですか?」


「好きにしろ」


 セリアはさっそく袋を開く。


 焼き菓子を一つ取り出す。


 そして一口。


「美味しいです!」


 ぱっと笑顔になる。


 その反応があまりにも素直で。


 ユリアは思わず目を細めた。


「そうか」


 短く返す。


 だが。


 その声は少しだけ柔らかかった。


「巡礼先にこんなの売ってるんですね」


「ああ」


「いいなあ」


「食いたかったのか」


「食べ歩きしたいです」


 そっちだった。


 ユリアは呆れた顔になる。


「今度行きましょう」


「行かない」


「行きます」


「行かない」


「行きます」


 即答の応酬。


 いつものやり取りだった。



 セリアは焼き菓子を大事そうに抱える。


 その様子を見ていると。


 不思議と悪い気はしなかった。


 むしろ。


 買ってきて良かったと思う。


「……」


 ユリアは小さく息を吐く。


 もちろん口には出さない。


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