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おかえりなさい



 翌日。


 朝から落ち着かなかった。


 理由は分かっている。


 分かっているのに認めたくない。


 セリアはため息を吐いた。


「まだかな……」


 小さく呟く。


 誰に聞かせるわけでもない。


 神殿へ向かう。


 いつもより少し早い時間だった。


 巡礼隊は昼頃に到着する予定。


 まだ時間はある。


 あるのだが。


 家で待っていられなかった。




 神殿へ着く。


 中庭を歩く。


 白い糸が見える。


 一本。


 回廊の柱の近く。


 周囲を確認する。


 誰もいない。


 手を伸ばす。


 糸は静かに消えた。


「これでよし」


 何となくそう呟く。


 理由はない。


 ただ。


 帰ってくる日だから。


 少しでも綺麗な方がいい気がした。




 昼が近付く。


 神殿の空気も少し変わっていた。


 巡礼隊が帰ってくる。


 神官達もどこか浮き足立っている。


 神官長も表へ出ていた。


「来ますよ」


 神官長が言う。


 セリアは思わず門の方を見る。



 やがて。


 遠くから馬車が見えた。


 神殿の旗。


 護衛騎士。


 巡礼隊だった。


 胸が大きく跳ねる。


 自分でも驚くくらい。




 馬車が門をくぐる。


 神官達が迎える。


 リシュリーが馬車から降りた。


 少し疲れているが元気そうだった。


 神官達が声を掛ける。


 その向こう。


 護衛騎士達の姿が見えた。



 そして。


 水色の髪。


 見慣れた姿。


「……」


 いた。


 当たり前なのに。


 ちゃんと帰ってきた。


 それだけで安心する。




 ユリアもセリアを見付けた。


 門の近く。


 いつものように立っている。


 思わず息を吐く。


 無事だった。


 いや。


 無事なはずだ。


 王都にいたのだから。


 それでも。


 姿を見た瞬間に肩の力が抜けた。




 目が合う。


 一瞬だけ。


 それだけなのに。


 セリアは笑った。


 本当に嬉しそうに。


「おかえりなさい!」


 周囲の神官達が少し驚くくらい大きな声だった。



 ユリアは少し目を細める。


 そして。


「ああ」


 短く返した。


 いつも通り。


 たったそれだけ。


 それだけなのに。


 セリアは満足そうだった。



「無事だったんですね」


「お前こそ」


 自然に言葉が出る。


「変わりないか」


「あります」


 即答だった。


 ユリアが眉をひそめる。


「何だ」


「長かったです」


 真顔だった。




 数秒。


 沈黙。


 そして。


 ユリアは小さく笑った。


 本当に小さく。


「そうか」


 それだけだった。


 だが。


 セリアは見逃さなかった。


 笑った。


 今。


 確かに。




 少し離れた場所。


 リシュリーはその様子を見ていた。


 何も言わない。


 ただ静かに微笑む。


 神官長も同じだった。




 巡礼は終わった。


 日常が戻ってくる。


 けれど。


 二人の距離は。


 出発前より少しだけ変わっていた。


 本人達だけが。


 まだ気付いていなかった。

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