↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/145

帰る場所



 巡礼最終日。


 最後の祈りを終え、一行は王都への帰路についていた。


 大きな問題もなく巡礼は終わった。


 各地の神殿も村々も平穏だった。


 護衛達の表情もどこか緩んでいる。


 帰るだけだからだ。


 馬を進めながら、ユリアは前方を見ていた。


 いつも通り。


 変わらない。


 そのはずだった。


 けれど。


 王都へ近付くほど、妙に落ち着かなかった。


「……」


 理由は考えない。


 考えたくもない。




 昼頃。


 一行は街道沿いの町へ立ち寄った。


 補給と休憩のためだ。


 市場は賑わっている。


 旅人も多い。


 神官達はそれぞれ買い物へ向かっていた。


 ユリアも馬を預け、通りを歩く。


 その時。



『お土産忘れないでくださいね』



 不意に思い出す。


 神殿前。


 見送りに来ていた少女。


 真面目な顔で何度も念を押していた。



『当然です』



 胸を張っていた姿まで思い出す。


「……」


 ユリアは小さく息を吐いた。


 面倒な約束をしたものだ。


 通りを歩く。


 何を買えばいいのか分からない。


 そもそも土産など滅多に買わない。


 そんな時。


 甘い香りが漂ってきた。


 焼き菓子の店だった。


 店先には様々な焼き菓子が並んでいる。


 素朴なものばかりだ。


「どうだい?」


 店主が声を掛けてくる。


 ユリアは商品を見る。


 少し考える。


 そして。


「これを包んでくれ」


 指差した。




 紙袋を受け取る。


 特別高価な物ではない。


 ただの焼き菓子だ。


 それでも。


 なぜかこれが良い気がした。


 理由は分からない。


 考える気もなかった。


「お土産ですか?」


 後ろから声がした。


 振り返る。


 リシュリーだった。


「そうだ」


 ユリアは隠さない。


「珍しいですね」


「そうか?」


「そうですよ」


 リシュリーは微笑む。


 ユリアが誰かのために土産を選ぶ姿など見たことがない。



「喜ぶといいですね」


 リシュリーが言う。


 ユリアは紙袋へ視線を落とした。


「別に」


 短く返す。


「約束しただけだ」


 それだけ。


 そのはずだった。


 だが。


 リシュリーは何も言わなかった。


 ただ穏やかに笑うだけだった。


◇◇◇


 一方。


 王都。


 セリアは今日も神殿へ来ていた。


 中庭を歩く。


 白い糸を見つける。


 周囲を確認する。


 誰もいない。


 そっと触れる。


 糸は静かに消えた。


「ご苦労様です」


 神官長が声を掛ける。


 いつの間にか近くにいた。


「見てたんですか?」


「偶然ですよ」


 たぶん嘘だ。


 セリアはそう思った。


「もうすぐですね」


 神官長が言う。


「何がですか?」


「巡礼です」


 セリアは瞬きをした。


 そして。


 少しだけ嬉しそうに笑う。


「そうですね」


 あと少し。


 本当にあと少しだった。




 その日の夜。


 セリアは窓から空を見上げていた。


 同じ頃。


 ユリアも宿の窓から夜空を見ていた。


 王都と旅先。


 離れた場所。


 けれど。


 どちらも同じことを考えていた。



 あと少し。


 巡礼が終わるまで。


 あと一日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。