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出発まであと少し



 巡礼まであと九日。


 神殿の中は少しずつ慌ただしくなっていた。


 護衛騎士達は装備の点検。


 神官達は各地への連絡。


 リシュリーも巡礼の準備に追われている。


 そんな中。


 セリアだけが別のことで頭を悩ませていた。


「二週間……」


 長い。


 本当に長い。


 昨日から何度も考えている。


 会えない。


 二週間。


 毎日のように会っていたのに。


 それが突然なくなる。


 想像しただけで寂しかった。




 神殿へ着く。


 今日も中庭へ向かう。


 すると。


 珍しくユリアが先に気付いた。


「来たか」


 自然な一言。


 それだけなのに。


 少し嬉しい。


「来ました」


「毎日だな」


「毎日です」


 胸を張って答える。


 ユリアは呆れたように息を吐いた。




 二人で歩く。


 最近では完全に日課になっていた。


 途中。


 若い神官達とすれ違う。


「仲良いな」


「本当にな」


 小声だった。


 だが聞こえた。


 セリアの顔が赤くなる。


 ユリアは聞こえなかったふりをした。


 だが耳は聞いていた。



「ユリアさん」


「何だ」


「巡礼のお土産買ってきてください」


 ユリアが足を止める。


「何故だ」


「欲しいので」


 当然のように答える。


「別に土産を買いに行く訳じゃない」


「知ってます」


 セリアは笑った。


「でも欲しいです」


 ユリアは少し困った顔をした。


「何が欲しい」


 聞いてしまった。


 断るつもりだったのに。


「え?」


 今度はセリアが驚く。


 まさか聞いてもらえると思わなかった。


「何でもいいです」


「それが一番困る」


 即答だった。


 セリアは少し考える。


 そして。


「じゃあ」


 小さく笑った。


「ユリアさんが選んでください」


 ユリアは頭を抱えたくなった。


 余計に困る。




 しばらく歩く。


 風が吹く。


 ふと。


 青い耳飾りが視界に入った。


 胸が少しざわつく。


 最近は前ほど強い頭痛は起きない。


 けれど。


 懐かしい気持ちは残る。


「……」


 セリアは見つめる。


 すると。


 ユリアが気付いた。


「そんなに気になるのか」


「気になります」


 即答。


 ユリアは少し考える。


 そして。


 意外なことを言った。


「見てみるか」


「え?」


 セリアが固まる。


 聞き間違いかと思った。


「見たいんだろう」


「いいんですか?」


 ユリアは少しだけ迷った。


 本当なら誰にも触らせたくない。


 だが。


 セリアなら。


 何故か分からないが。


 少しだけ違った。


「ああ」


 短く答える。


 首から外す。


 そして掌へ乗せた。




 青い耳飾り。


 近くで見るのは初めてだった。


 淡い青色。


 透き通るような色。


 綺麗だった。


 本当に。


 思わず手を伸ばす。


 指先が触れる。


 その瞬間。




 祭りの灯り。

 笑い声。

 小箱。

『すごく嬉しい』

 幸せそうな声。

 胸の奥が温かくなる。

 大好き。




 そんな感情。




「っ……!」


 セリアが息を呑む。


 頭痛はない。


 だが。


 涙が出そうになる。


 理由も分からず。


「どうした」


 ユリアが聞く。


 セリアは首を振った。


「分からないです」


 本当に分からない。


 ただ。


 悲しくない。


 苦しくない。


 むしろ。


 幸せだった。


 そんな気がした。



 ユリアは耳飾りを受け取る。


 そして少しだけ驚いていた。


 今までと違う。


 頭痛がない。


 苦しそうでもない。


 代わりに。


 どこか懐かしそうな顔をしている。


「……」


 何が起きている。


 本当に。


 分からない。


 だが。


 一つだけ確かなことがあった。


 セリアはこの耳飾りに反応する。


 それも。


 異常なくらい。




 帰り際。


 セリアは少しだけ笑った。


「ありがとうございます」


「何がだ」


「見せてくれて」


 ユリアは答えない。


 ただ。


 耳飾りを胸元へ戻した。


 その仕草を見ながら。


 セリアは思う。


 あの耳飾りを大切にしていた人は。


 きっと。


 とても幸せだったのだろうと。


 何故だか。


 そんな気がした。


 巡礼まで。


 あと九日だった。



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