青い色
翌日。
セリアはいつものように神殿へ向かった。
だが。
中庭へ着いて最初に気付く。
「いない」
ユリアがいなかった。
訓練場にも。
木陰のベンチにも。
姿が見えない。
少しだけ胸が沈む。
その時。
「探してるのか?」
顔見知りの神官が声を掛けてきた。
「え?」
「ユリア殿」
図星だった。
セリアは少し気まずそうに視線を逸らす。
「今日は北門だぞ」
「北門?」
「ああ」
神官は笑った。
「配置を変えてもらったらしい」
セリアは首を傾げる。
珍しい。
だが。
理由までは分からなかった。
◇◇◇
一方。
北門。
ユリアは腕を組みながら外を眺めていた。
距離を取ろう。
少しだけ。
そう思って配置を変えた。
我ながら情けない。
だが必要だった。
考える時間が。
夕方。
セリアは北門へ向かっていた。
会わないまま帰る気になれなかった。
そして。
すぐに見付ける。
「あ」
自然と顔が綻んだ。
「ユリアさん!」
声を掛ける。
ユリアが振り返る。
少し驚いた顔をした。
「何故ここにいる」
「会いに来ました」
即答だった。
ユリアはため息を吐く。
距離を取ろうとした意味がない。
二人は門の近くを歩いていた。
夕日が石畳を赤く染める。
「避けてます?」
突然セリアが聞いた。
ユリアの足が止まる。
「何故そう思う」
「何となくです」
鋭い。
こういう時だけ。
「気のせいだ」
「そうですか」
納得していない顔だった。
だがそれ以上は聞かない。
代わりに少しだけ近付く。
「近い」
「気のせいです」
「気のせいじゃない」
即答だった。
風が吹く。
ユリアの胸元が揺れた。
服の隙間から。
青い耳飾りが覗く。
セリアの視線が止まった。
胸がざわつく。
懐かしい。
苦しい。
でも見ていたい。
理由は分からない。
「……」
ユリアはその視線に気付く。
「気になるのか」
珍しく自分から聞いた。
セリアは頷く。
「はい」
「何故だ」
「分かりません」
本当に分からない。
けれど。
「懐かしい感じがするんです」
ユリアの目が僅かに揺れた。
その時だった。
祭りの音。
露店。
並ぶ装飾品。
青い耳飾り。
『ユリアの瞳の色に似てる』
「っ!」
セリアが頭を押さえる。
視界が揺れる。
知らない景色。
知らない声。
なのに。
胸が締め付けられるほど懐かしい。
「セリア!」
ユリアが支える。
「大丈夫か」
「だい……じょうぶです」
全然大丈夫ではない。
けれど少しずつ落ち着いていく。
「何を見た」
「分かりません」
セリアは首を振る。
「でも……」
言葉が残っている。
『ユリアの瞳の色に似てる』
それだけが。
どうしても消えなかった。
近くのベンチへ座る。
沈黙が続く。
やがてセリアが口を開いた。
「その耳飾り」
ユリアを見る。
「大切な人にもらったんですか?」
ユリアは少し驚いた。
そう見えるのか。
確かに普通ならそう思うだろう。
「違う」
短く答える。
セリアが首を傾げる。
「違うんですか?」
「ああ」
ユリアは耳飾りへ触れた。
「オレが贈ったものだ」
セリアは固まった。
「え?」
予想外だった。
「ユリアさんが?」
「ああ」
「じゃあ何で持ってるんですか?」
当然の疑問だった。
だっておかしい。
贈ったものなら。
持っているのは相手のはずだ。
ユリアは答えなかった。
少しだけ目を伏せる。
その沈黙だけで十分だった。
セリアは察する。
聞いてはいけないことだったのかもしれない。
「……ごめんなさい」
「謝るな」
ユリアは首を振った。
そして静かに言う。
「昔、大切にしていた人のものだ」
その声は優しかった。
だからこそ。
セリアの胸は少しだけ痛んだ。
今も忘れていない。
そんな声だったから。
帰る頃には頭痛も治まっていた。
だが。
胸の中は落ち着かない。
大切な人。
耳飾り。
忘れられない誰か。
そして。
自分の知らないユリアの過去。
セリアは空を見上げる。
夕焼けが広がっていた。
理由は分からない。
けれど。
その人のことを知りたいと思った。
どうしてユリアが今もその耳飾りを持っているのか。
どうしてそんな顔をしたのか。
知りたい。
そう思ってしまった。




