年齢
翌日。
セリアは神殿へ来ていた。
来ないという選択肢はなかった。
昨日あれだけ恥ずかしい思いをしたのに。
それでも会いたかった。
だから来た。
「……」
中庭の入口で立ち止まる。
少し深呼吸。
落ち着け。
普通に話せ。
変なことを言うな。
自分へ言い聞かせる。
そして歩き出した。
「何をしている」
いきなり声がした。
「ひゃっ!?」
驚いて飛び上がる。
目の前にはユリア。
いつの間にいたのだろう。
「驚き過ぎだ」
「ユリアさんが急に話し掛けるからです」
「オレはずっといた」
セリアは恨めしそうに見上げる。
ユリアは平然としていた。
その顔を見ると。
また少し胸が苦しくなる。
二人で中庭を歩く。
今日のセリアは少し落ち着かなかった。
何を話そう。
そんなことばかり考えている。
すると。
ふと疑問が浮かんだ。
「ユリアさん」
「何だ」
「何歳なんですか」
ユリアの足が止まった。
数秒。
本当に数秒。
完全に固まった。
セリアは首を傾げる。
「そんなに答えにくいですか?」
「……急だな」
「気になりました」
本当に気になった。
今まで聞いたことがなかったから。
ユリアは視線を逸らす。
困っていた。
かなり。
実年齢は言えない。
だが。
見た目年齢を言うのも違う。
そもそも自分でもよく分からない。
「二十代だ」
結局そう答えた。
嘘ではない。
少なくとも見た目は。
「二十代前半?」
「その辺りだ」
曖昧だった。
セリアは納得した。
なるほど。
やっぱり年上だ。
でも。
思ったほど離れていない。
少し安心する。
「何だその顔は」
「別に?」
笑顔だった。
隠せていない。
ユリアは嫌な予感がした。
しばらく歩く。
そして。
セリアは意を決した。
「ユリアさん」
「何だ」
「私、あと三年で成人です」
ユリアは嫌な予感が強くなった。
「そうだな」
「三年なんてすぐですよね」
「……何が言いたい」
セリアは少しだけ照れた。
だが。
視線は逸らさない。
「その時になったら」
ユリアが黙る。
「考えてくれますか」
風が吹いた。
沈黙。
長い沈黙。
ユリアは理解してしまった。
この少女が何を言いたいのか。
「セリア」
声が少し低くなる。
「はい」
「お前」
言葉を探す。
だが。
上手く見つからない。
「まだ十五だろう」
結局それだった。
セリアは少しむくれる。
「知ってます」
「知っているなら」
「でも三年後は成人です」
反論された。
即座に。
ユリアは額を押さえた。
頭が痛い。
別の意味で。
「何でそんな話になる」
「何ででしょう」
「自覚しているだろ」
「してます」
あっさり認めた。
ユリアは絶句する。
逃げ道が消えた。
「お前な……」
「好きですよ」
あまりにも自然だった。
告白というより。
事実確認みたいに。
だから余計に困る。
「そういうことを簡単に言うな」
ユリアはため息を吐いた。
「簡単じゃないです」
セリアは真面目な顔で言う。
「結構勇気出しました」
その顔を見て。
ユリアは何も言えなくなる。
冗談ではない。
本気だ。
本当に。
そして。
その真っ直ぐさが。
昔の誰かを思い出させる。
「……」
胸元へ手が伸びそうになる。
青い耳飾りへ。
だが止めた。
今は駄目だ。
比較したくない。
セリアはセリアなのだから。
別れ際。
セリアは振り返った。
「三年後ですよ」
「何がだ」
「返事」
にっこり笑う。
そして走り去った。
ユリアは呆然と立ち尽くす。
しばらくして。
深いため息を吐いた。
「……三年後か」
普通なら。
笑い話だった。
十五歳の少女の憧れ。
それで終わる。
だが。
何故だろう。
完全には否定できなかった。
それがユリア自身を困らせていた。




