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三章 第4話 星合流成は画策する

  「イベントを開こう!」


  扉を突き破らんとする勢いで入ってきた流成さんがそう告げる。

  一気に店内が静かになる。元から会話が途切れていた俺らに加えて、他の客の会話も途切れてしまっている。おいぃ、店長……。


  「どういう意味、お父さん?」


  この状況で切り込む夜空は強心臓なのかもしれない。いや、ただファザコンなだけか……。

  しかしこの言葉が皮切りになり、徐々にざわめきが戻ってくる。ついでに幾分か流成さんも話しやすくなったことだろう。


  「ああ、今日、自分が講演会に行ってたのは知ってるね? あ、環さんは……」


  「そうなんですね~」


  何気ないやり取りだ。しかし俺は愕然とする。会話のレベル高すぎない?

  流成さんは事情を知らない春野を気遣い、春野は罪悪感がないようにあえて緩い返しをしている。コミュ力高い二人が揃うと、こうなるのか……。

 

  「そうだったわね。どうだった?」


  「よかった。凄くよかった。だから実践しようと思って」


  今日は流成さんはなんか経営アドバイザーの講演会を聞きに行っていて、俺と夜空が店番をしていた。のだが……そんなに良かったのか。


  「実践?」


  俺はその意味がわからず、聞き返す。


  「ああ、経営アドバイザー曰く、客を集めるには目玉があるといいらしい。だからそれを実践しようってことだよ」


  話を聞いていて不安になってきた。その経営アドバイザー大したこと言ってなくね?

  そりゃあ目玉があれば、人が集まるに決まっている。大体の悩みはその目玉が簡単に作れないことだ。経営アドバイザーならその方法論を教えるものだが……。流成さん、よくこれでカフェ経営できたなあ。


  「なるほど、確かに言うとおりね」


  その父あって子あり。俺がたどり着いた真理に夜空は軽くたどり着いてしまいそうなものだが、あっさり納得している。


  「して方法は?」


  俺が浮わついた流れを修正しようと言葉を発するが、思い切り夜空に睨まれる。ほら! やっぱり気づいてるじゃん!


  「あなたは何なの? それに文句あるなら、あなたが意見を出せばいいじゃない。だいたいここは父と私でやっているのよ。私たちの裁量であなたの首なんていくらでも飛ぶのよ」


  ドスの利いた声だった。いや、そんなにキレなくてもいいじゃん……。というかそれただのパワハラだから。そろそろ労働基準監督官に告発していいかなあ……。


  「まあまあ、これ以上やめとこうよ。尾道くんの言うとおり具体的な方法がないとね」


  春野が両手を振りながら、フォローしている。やっぱり春野は優しいなあ……。


  「具体策……」


  親子揃って呟く。どうやらそれについて何も考えていなかったらしい。ていうか春野にも甘すぎない? 俺だとボロクソに言われたのに。


  「どんなのがある? 朝比奈くん」


  「これみよがしに俺に具体策出させるのやめろよ……」


  なんで夜空はさっき店の責任者は自分らとか言っておいて、面倒くさくなった途端、これなんだよ。


  「あー、新メニュー発表会とか?」


  俺はそれでもちゃんと案を出してやる。意外と人間が出来ているのかもしれない。


  「はあ……、ありきたりね、期待したのが間違いだわ」


  夜空は額に手を持っていき首を振る。そんながっかりしなくてもいいでしょうが……。

  俺はその反応に苛つき、口をつく。


  「じゃあお前が案出せよ」


  「嫌よ。あなた絶対に揚げ足取るじゃない」


  ほう……。俺のことも少しわかってるじゃん。今なら夜空が何を言おうとも「ありきたりだな」って言おうとしていた。


  「イベントか~。でも難しいよね、そういうの」


  春野が能天気な声を上げて、会話に入ってくる。おそらく水面下の戦いを理解してはいないのだろう。


  「そうだね。自己満足じゃ意味がないから」


  うんうんと腕を組みながら流成さんが相づちを打つ。

  そうなのだ。イベントをするのは全然いい。だがそこに独創性というエッセンスを加えないと、ありきたりで面白味のないものになってしまう。

  今回の場合の目的は集客だ。集客のためには面白味というのは欠かせない。それを創出するのが難点なのだ。


  だが方法はある。ありきたりでも効果的な方法というのは存在する。それが新メニュー考案とかな訳だが、夜空に否定され八方塞がりだ。

  そのせいで独創性というのがこの会話の焦点となっている。この状態では、キャンペーンとか期間限定とか言っても無意味だろう。


  「まったく……、難しい話になったもんだな……」


  ぼそりと俺が呟く。

  複雑じゃない問題を複雑化する。俺が嫌いなものの内の一つだ。俺の場合、嫌いなものが多すぎてそれに強調の意味はないが。

  沈黙が下りる。出たよ、この不自然な会話の途切れ。これは俺が最近、嫌いになった。


  「うーん。尾道くんの新メニュー発表会とか悪くないと思うんだけどなー」


  「春野、やめろ。その会話はとっくに終わった」


  俺が手でそれを制す。ここにきて原点回帰とか今までの流れが蛇足すぎる。無駄も嫌いだ。

  しかしその言葉には続きがあるらしく、うーんと言った後、言葉を紡ぐ。


  「でもありきたりじゃつまらないから、場を用意する必要があるね」


  「お、おう、そうだな」


  意外に考えられていた。そうなのだ。ありきたりを回避するのは僅かな変化なのだ。少し周りと違うなら何も問題ない。


  「そういえばもうそろそろ花見のシーズンね」


  「は? 何言って……」


  俺が訳も分からずそう言うが、夜空は話すのをやめない。


  「そこに出店するっていうのはどうかしら?」


  「おー! なるほどー! あそこの桜並木、綺麗だもんねー」


  「確かにそれなら宣伝にもなるし、客の満足度も高そうだね」


  俺も異論はない。これなら少し捻ってて独創性があるし、自己満足にもならない。それでいて来客が見込める。とてもいい案だと思う。

  けど気になることが一つ。夜空のドヤ顔がウザすぎる。確かにそう考えると俺の案はショボいけれども。


  「まあ……いいんじゃねぇの」


  俺が渋々、認めてやるとそのドヤ顔は強くなる。くっ、言わなかったら言わなかったで、罵倒するのにこの仕打ち。夜空さん、マジパネェす。


  「となると後は新メニュー開発ね」


  夜空の言うとおり、これは新メニューが目玉であり、場所は二の次だ。


  「花見シーズンっていつだっけ?」


  「年によるけど、この天候なら三週間後かなー」


  春野の質問に流成さんは丁寧に答える。


  「三週間後……」


  俺が何気なしに呟くが、無理そうな気がしてきた。

  新メニュー開発だけではなく、その材料の調達、宣伝、出店の準備や許可などやることは山積みだ。


  「厳しいね……」


  春野が同調する。その通り。これは厳しい。ていうか無理だ。通常営業でも忙しいのだから、この話は無しということで……。

  そこで春野の目がきらりと光った、気がした。不安のボルテージが一気に高まる。


  「それなら残業するしかないね! 私も手伝うしさ!」


  「いや、何勝手に決めてんだよ。だいたいお前はここの従業員じゃ……」


  「えー! だって間に合わないよ、そうしない~と」


  春野よ、俺は別に如何に早くできるかを指摘しているのではない。出来るか出来ないかを論じているのだ。

  だがそんな思いもおかまいなしに夜空の肩を揺らし、説得している。……あ、まずい。この流れは……。



  「はあ……仕方ないわね、あなたも手伝ってくれるならやるわよ」


  「やったー! どんなのがいいかな~」


  案の定、夜空が折れた。これどうなん? 差別っていうのはこうやって生まれるんだなあ……。


  「やるのはいいが、時間がネックだぞ」


  一応、苦言を呈する。出来ないことを情に流されてやったって失敗するだけだしな。


  「どうにかするわよ、どうにか」


  夜空がいつも通りの涼しげな声で言う。それを聞くとどうにかなりそうだが、具体的なことは何も言っていない。はあ……不安だ。

  あまりにも不安で、ちらと流成さんを見るが、うんうんと頷いているだけだ。この人も大事な時に抜けてるからなあ……。

  もはやこの状態で反対する者は俺以外にいない。俺はこの店最弱なので、拒否権すら持たない。


  また余計な仕事が増えた。そんな憂鬱を抱えながら、店内を眺める。

  しかしこれが望んでいた景色なのかもしれない。ふとそんなことを思う。めんどくさくて、どうしようもないもの。それでも謎の達成感がある場所。

  大きく遠回りしてやっとたどり着いた場所だ。大事にしなければ。そう思いながら、この後のことについての会話の輪に入っていく。

二章は学校篇だったので、三章はまた違った悩みが湧いてきます。それは服装です。男子は幅が狭くて楽なのですが、女子が幅も広いし疎くてよくわからない……。便利な何かないかなー。

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