021 同盟する?
「でも安心して。必ずしも最後のひとりにならなくてもいいらしいの」
あやめはにっかり笑うと紅茶をひとくち飲んだ。
「どういうこと?」
「なんか解釈は曖昧なんだけどね。べつに神々のバトルロイヤルとか頂上決戦をするわけじゃないって。あくまで伝説では神々が争ったうえで神の王を決めることになっているんだって」
「つまり12人の中から神の王が決まれば問題ないってこと?」
「みたいね。神々の王が決まれば、それ以上、争う必要がないってことみたい」
「なら戦わなくたって話し合いでいいんじゃないか?」
「そう上手くいかないから問題なのよねぇ」
「どうしてさ?」
「少なくとも強大な力持つウラヌンとアクロアは不倶戴天の敵同士でね。わたしが顕現する前にいろいろあったみたいよ」
「いろいろって?」
「さあ? でも利害関係で対立してるっていうより、もう感情論的に憎み合ってる感じかな」
あやめは呆れた口調でいう。
「それはまた厭な感じでこじれてそうだな。しかも四大元神かつ降臨順が2番と3番ってのが致命的だろ」
おれはリトを見て嘆息を漏らした。
「でしょ? 少なくともこの2人はどちらか一方を打倒さない限り話し合いで王を決めるなんて言うのは無理ね」
「序列の低いおれたちは中立を気取って傍観する余裕もないわけか」
おれは自分の置かれた立場をつかみかけていた。
考えれば考えるほど苦しいことがわかってくるだけだったが……
「そう、そこなのよね。うちらもウラヌンかアクロアかどちらかの勢力に付かなければ双方の勢力から攻め滅ぼされかねないのよねぇ」
「あやめちゃんはどっちに付こうと?」
おれは率直に質問してみた。
「地理的にいうとね、わたしたちのルミニア国に隣接しているのはアルケディア王国。アクロアを守護神とする異世界屈指の大国よ。その気になればルミニア国なんて小国は簡単に攻め滅ぼされちゃうよねぇ。恐いよねぇ」
あやめはイマイチ現実感がないというか他人事のように言う。
「選択の余地はないってわけか?」
「うちらが神託を下して戦争をさせようとしても信者たちは相手の軍事力に怖気づいてアクロア側に改宗されちゃうかもねぇ」
「そうか、改宗ってこともあるのか……」
おれは改めて気付かされた。
自分がやろうとしても直接は手を下せない。あくまで実行するのは信者たちなのだ。無理をさせると逆に離反される可能性もあるのだ。
「特にバーンくんのところは新興宗教だからねぇ。簡単に伝統的宗教に呑みこまれかねないよぉ。向こうはもう200年以上の歴史があるんだから」
「たしかに……」
「ところで、そもそもどうして神の王なんか決めないといけないんだ? 理由はあるのか?」
おれは何か解決の緒になりそうなことはないかと訊いてみた。
「伝説では生き残った神々は邪神と最終決戦を行うことになってるんだってよ」
「邪神? なんだよ、それ?」
「それがまだわからないんだよねぇ。でも最初の神の顕現した頃から異世界に人ならざる異種族がはびこりだしてね。それが邪神の眷属だって話だけど。あなたは見たことあるんじゃなかったっけ?」
「もしかしてメリアを襲った、あの怪物?」
おれはメリアと最初に会ったとき、メリアを襲おうとした奇妙な獣人のような化物のことを思い出した。
「そうそう、たぶん屍食鬼ってやつ。そいつらはそこそこ知能はあるんだけど12神いずれの神も信仰しないで、その邪神を崇拝してるんだって噂よ。あくまでも異世界の人間たちの噂だけどね」
「伝説とか噂とかそんなのばっかりだな」
不確定な情報ばかりにおれはちょっと食傷気味になっていた。
「全知全能の唯一神じゃないからね。わからないことはわからないよ」
「おれは自分の司る森のことも動物のこともわからないけどな」
おれは自嘲気味に笑ってみせた。
「大丈夫。あなたとなら上手くやっていける気がするし」
「立場の弱い者同士、互助会的な同盟を組みましょうってことか?」
「ぶっちゃけると、そういうこと」
「なんでおれなんだ?」
「だって嘘つけない人でしょ、トーゴくん?」
あやめはあっけらかんと言ってのけた。
「なんだよそれ?」
ここにきて初めて本名を呼ばれたことで、ちょっとたじろいでしまった。
「陰謀渦巻く神々の世界で裏切られそうにないってすごく重要なのよぇ」
「つまり、おれはちょろいから安心だってことかよ?」
「うん、ちょろい!」
「――はっ!?」
「いいじゃない、そんなこと。ということでよろしくね、バーンくん!」
いきなりあやめは立ち上がると背中からおれに抱きついてきたのだった。
あやめの細い腕がおれの首にまとわりつき、呼吸する吐息が耳元ね漏れる。
そして背中に当たるこのやわらかい感触は……
今この瞬間、きっとおれは鼻の下を伸ばしきって夕日のように赤面しているにちがいない。
しかし悪い気はしなかった。いや、とてもうれしかった。いやいや、これぞ人生最良の日だ! 目の前は薔薇色に染まっていた。
ただしカフェに入ってきた桜子と視線が合うまでの数秒間だけのことだったが……
眷属【けんぞく】
眷属神としての「眷属」は、本来、神の使者をいう。
多くはその神と関連する動物 (想像上の動物を含む)。動物の姿を持つ、または、動物にみえる、超自然的な存在を意味することもある。(wikipediaより)




