020 異世界の十二神
待ち合わせ場所はチェーン店のカフェだった。
おれはいつも何の気なしに入っているはずの店内に緊張しまくりながら自動ドアをくぐった。
入ると同時に胸元に手を置いて目印の指輪が見えるようにして、こちらも周りを見まわしてみた。
平日の午後ながら駅前ということもあり、そこそこの客入りのようだ。
この中に女神クレアはいる。さらに目を凝らそうとしたとき――
「ここ、ここぉ~っ!」
店内の奥のほうから制服の女の子が大きく手を振っているではないか。
よくは見えないが、その手には指輪が光っているような気がした。
おれは手招きされるまま、彼女のところに歩いていった。
「バーンくんでしょ?」
開口一番、女子高生が訊いてきた。
「えっ、あ、うん……」
「こっちの世界では、はじめましてだね。わたしがクレア。本当の名前は八ツ橋あやめ。あやめでいいよ!」
あやめはぶんと音がするくらいの勢いで右手を差し出してきた。
すごい勢いに気圧されてしまいそうになったが、握手を求めてきているのはわかったので、躊躇いがちにおれも手を伸ばす。
これが握手なのかというくらい彼女はむんずと手を握り、ぶんぶん振りまわしてきた。
それにしても、あやめの手は予想よりもやわらかくて、すこしひんやりしていた。これが女の子の手の感触なのかと感動してしまった。
「おれは……鳳桐悟」
完全に舞い上がってしまっていたが、なんとか上ずってしまった声で名前を告げることができた。
「トーゴね。うん、わかった! よろしくね!」
いきなりのテンションにおれは完全にあやめのペースに呑まれてしまった。
初対面で、ここまでなれなれしくしてくる女子というものに出会ったことがなく、それだけでもドキッとしてしまうくらい耐性がない。
たしかにあやめはおれと同じ金色の指輪をしている。本当に彼女がクレアなのだ。
そうとはわかっていても異世界で女神姿のときとはまるで違っているた。
八ツ橋あやめは中学生といってもいいくらい小柄な子で黒髪をポニーテールに結んでいた。制服はブレザーで高校名まではわからない。おとなっぽい女神の姿とは真逆といっていい。これで混乱するなというほうが難しい。
「それにしても意外と近くに住んでる人で驚いたよね。てっきり世界中にちらばっていて日本にはわたししかいないのかもとか思ってたんだからぁ」
席につくなりあやめは以前から友達だったみたいにフレンドリー話しかけてきた。
「たしかに、おれも驚いた……」
こういうとき非モテなおれはまったく気の利いたことひとつ言えない。
「それでさ、さっそくなんだけど、これ見て、見て!」
おれの気まずいリアクションなどまるで気にせず、あやめはさっさとテーブルの上にかわいいキャラが表紙のノートを拡げてみせた。
「でね、これが顕現した12神のリストなんよね」
1 美と愛の女神フロリア
2 嵐と雷の神ウラヌン(空)
3 海と酒の女神アクロア(水)
4 軍隊と殺戮の神ガルン
5 死と疫病の女神ロトア
6 火山と鉱物の神ヴォルカン(火)
7 太陽と公正の女神ヘリア
8 城壁と智慧の女神クレア
9 大地と豊穣の女神ティラ(地)
10 月と闇の神ダイアン
11 街道と商売の神ベルン
12 森と動物の神バーン
ノートには神々の名前がリストアップされていた。
「これが12人の神なんだ……どれも強そう」
「少なくともバーンくんより強いよぉ。一応、順番は顕現した順番ね」
「というと、八ツ橋さんは8番目なんだ」
「ちがうって!」
「えっ!?」
「あやめだから」
「ああ、そっちのほうか」
「それ大事なとこだから!」
あやめは大真面目に肯いてみせた。
「ごめん。でも、あやめちゃんは他の神に会ったことあるの?」
「向こうの世界で何人かはね。でも、こっちの世界ではバーンくんだけだよ」
おれには名前を呼ばせているのに、おれのことは神名で呼ぶのかよと思ったがそんなことも言えるわけもない。
「だいたい信者数もこの順位どおりかな。やっぱり早く始めてる人は有利だよね」
「そういうものなんだ」
つまり最後のおれがもっとも不利っていうことだ。
「でも神さまとしての力は信者の多さだけでは決まらないんだよね」
「そうなの?」
おれはちょっと期待してしまった。もしかして最後の神のおれは超強いのかも!
「このカッコで書いてある地水火風の四大元素を司る神さまたちは、素質っていうのか才能っていうのかな、元からステータスが超強力なのよ。いわゆるアタリってやつだね。別名、四大元神って呼ばれてる別格の存在」
「おれは、そのエレメンタルじゃないの?」
「バーンくんは森と動物を司る神さまだからね。嵐や火山より強い思う?」
おれは素直に首を横に振った。
「まあ、一番最後の登場で不利な上に司る神格も一番冴えないのが、ねぇ?」
あとは察してくれと言わんばかり、あやめはこちらを見つめてくる。
「それって超ハードモードの無理ゲーじゃないか!」
おれは自分が伝説のスペランカーになったように思えてしまい絶望にうちひしがれてしまった。
スペランカー【Spelunker】
“無謀な”洞窟探検家を意味する名詞。対義語はケイバー。
アーケードやコンシューマで開発・発売されたアクションテレビゲーム。
上記のゲームのファミコン版に由来した虚弱体質の人の呼称(ニコニコ大百科より)




