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内職で異世界の暗黒神はじめました!  作者: 蘇芳ヨウ
【第2章】聖戦の胎動
18/22

018 そして暗黒神

「たしかに神は神を殺せない。しかし人は神を殺せる。神もまた人を殺せる」

 おれはできるだけ動揺を見せないよう、頭をフル回転させて一言一言、言葉を選んだ。

 ここで弱みを見せようものなら、眼の前の女神だけでなく他に10人いるという神々の餌食になりかねないということくらい、おれにもわかる。


「信者がゼロになったら神も死ぬ。それがこの世界のルールだったよな、ロマ?」

 おれはロマにどう言うを求めるように目を見る。

「ですね」

 ロマは無表情のまま肯いた。

 大丈夫。おれの認識は間違っていない。信者数は給与だけでなくRPGにおけるHPのようなものでもあるのだ。


「よかったぁ。思ったよりバカじゃなかったのね」

 クレアは挑発したいのだろう。おれを見下すかのように言った。

 しかしおれは彼女の思惑に簡単に乗ってなんかやるものか。さらに平静を装った。


「最後発のおれはいわば先輩たちにとってはカモなんだろ?」

「あたり! ご明察ね」

「潰すなら信者の少ないやつからっていうのは正攻法。まさにスケープゴート――犠牲の羊にはちょうどいい!」

 おれは自嘲気味に自分の頭にある羊のような角に触れてみた。


「だからって、おれもそう簡単には潰されるつもりはないぜ。どんどん信者を増やして、ガンガン稼いでやるよ! カネがあれば《神威》の課金もできる」

 おれはできる限り虚勢を張ってやった。たとえ蟷螂とうろうおののごとき無力だとはいえ、窮鼠猫きゅうそねこむのたとえもある。死に物狂いに抵抗されて思わぬ痛手を追えば、バトルロイヤルのごとき生き残りゲームにおいてつぎに狙わるのは手負いの自分になりかねないのだ。

 虚勢もまた抑止力になる。圧倒的な実力差をくつがえすのは、もう心理戦しかない。おれは本能的にわかっていた。


「たいそうご立派ね。そう上手くいくかしら? 最初に顕現した神はバーンくんより300年以上早くから始めているのよ」

 このクレアの言葉に眩暈がする思いだった。

 300年……独りイエスが伝道をはじめたのが西暦25年頃。その教えがキリスト教となり迫害を乗り越えローマ帝国公認の国教となったのが313年。300年は充分過ぎる時間だ。


「普通にやっていたら、たぶん無理だろうな。だから――」

 おれはおれたちのことなどまるで関係なく続いている血腥ちなまぐさい儀式を眺めた。おれのための儀式だ。

 どういう経緯なのかは知らない。おそらくおれが来る以前からの土着信仰と融合し発展させた儀式なのだろう。こうなると、もう神であるおれでも修正はききそうもない。

 ヨーロッパでもケルトやゲルマンの土着信仰と結びついたことにより、カトリックでは偶像崇拝の禁止はうやむやになり、聖母マリアをはじめ無数の聖人への多神教的な信仰は止められなかった。

 神だからすべての人間を自由に操ることはできない。もし自由に操れるのなら世の悪をなくすことなど簡単だったろう。


 だが、そこに勝機がある。本能的にそう訴えかけてくるものがあった。

 完全に神の自由にならないのだから、ままならない人間の不確定要素がある。そこにつけいる隙もきっとあるはずなのだ。


「やってやるよ!」

 おれは教義を書いた握りつぶしていた。

 もうこんな教義なんて関係ない。民の平和と安寧なんて綺麗事はどうでもいい。

 生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。座して死を待つだけなんてごめんだ。

 こうなったら悪神だろうと暗黒神だろうとなってやろうじゃないか!


 なぜ、こんな気持ちが沸々(ふつふつ)と湧いてきたのか。いつもの自分らしくない。かりそめとはいえ、この神としての体が大きくたくましいと思考や態度も影響して大きくなり、大胆になってゆくものだろうか。


「せいぜい頑張ってね。わたしも中間テストが終わったら本気で相手してあげるから」

「おい、ちょっと待て! なんだよ中間テストって……中学生なのか!?」

「失礼ね、高校よ!」

「同じようなもんだろ」

「なっ、なによ! 文句あんの!」

 いきなりクレアの口調が幼くなった。


 いやはやなんとも……まさか年下だったとは。先輩だし見た目の先入観もあって、てっきり年上かと思いこんでいた。

 アストラル体とかいう神の外見と中身の人間には関連がないというのは、自分の異形を目にしているのだから頭では理解できているつもりだった。

 しかし実際に目の前にたたずむ金髪碧眼の妙齢の女神が、そこらにいるような女子高生だったというのはあまりにギャップが大きすぎた。


「なんだよ、おれはこんなガキにムキになっていたのかよ……」

 まさか女子高生と命の張り合いをしようとは思いもよらなかった。

 一気に燃えあがりつつあった決意のモチベーションがダダ下がってゆく。


「高校生だからって甘く見ないほうがいいわよ」

 クレアは取りつくろうに言ったが、さっきまでの威圧感はもう感じられなかった。

「おれも油断はしないし容赦もしない」

 心に余裕ができたのか、さっきよりも堂々と言えた。


「それにさっき、きみはおれとは100年差だと言ってたな。つまりきみより後発の弱い神より先発する強い神のほうが多いんじゃないのか?」

「だったら、なんなのよ?」

「単純に弱い後発の神から各個撃破されてゆけば、遠からずきみも同じ運命を辿ることになることを怖れていたんじゃないのか?」

「そ、それは……」

「だからきみは同盟関係を結べる相手を探していた。そして、できれば自分が主導権をとれる同盟だ。そうだろ?」


「うむぅ……」

 すっかり見透かされたらしい。クレアはむくれてしまった。

 やはり見てくれとは関係なく中身は年相応なのだ。


「いいだろ。おれも単独で勝ち残る気はしない。きみに乗ってやるよ」

ミラノ勅令【Edictum Mediolanense】

313年にローマ皇帝コンスタンティヌス1世 (当時は西方正帝)とリキニウス (同・東方正帝)が連名で発布したとされる勅令である。(wikipediaより)

これによりローマ帝国おいてキリスト教が国教とされたとされる。

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