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内職で異世界の暗黒神はじめました!  作者: 蘇芳ヨウ
【第2章】聖戦の胎動
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017 ギガントマキア Γιγαντομαχία

「あらまあ、たいへん」

 クレアは目を見開いて、さも驚いた顔をしている。しかし口調は棒読みだった。


 おれの胸に矢を刺したのは間違いなく目の前に立つクレア自身なのだから。

 おれは苦しみにもだえながらうずくまってしまった。


「大丈夫よ。死にはしないわぁ。神に神は殺せないことになってるから」


「……どうしてこんなことを?」


「試してみたかったのよ。神に神が殺せるかどうかって。でも本当だったみたいね」

 クレアは無邪気ないたずらでもしたかのように微笑んだ。


「ミッドガルトにいるときの神の体はアストラル体ですから。物理的に傷つけることは不可能です」

 苦しむおれを気にするふうもなく平然とロマが解説を加える。


「でも痛みは感じるようね」

 クレアは胸に刺さった銀の矢を抜いた。

「……うぐぅっ!」

 おれの口から嗚咽が漏れる。

「すべて精神作用による錯覚です。実際に痛みがあるわけではないです」

「なるほどね。きっと痛いだろうという気持ちがありもしない痛みを作りだしていると」

「はい」

「だってさ、バーンくん。痛くないと思えば痛くないんだって」


「そんなこと言われても痛いものは痛いんだよ! よくもこんなことしやがって。どういうつもりなんだよ!」

 おれは怒りに震えて言い返した。


「ちょっとしたお仕置きかな? あなたのせいで、わたしの信者が少しだけだけど減っちゃったのよね。このあたりは元々わたしの教圏だから」

「おれだって好き好んでここに来たわけじゃ――」


「でも最初が肝心って言うじゃない? あらかじめ釘を刺しておかないと。あっ、実際は矢だったけど」

 クレアは引き抜いた矢を何事もなかったかのようにゆきに戻す。

 銀の鏃は曇りひとつない。不思議と血はついていない。


 刺されたはずのおれの胸からも一滴たりとも血は流れていなかった。

 矢の刺さったところを指でなぞってみたが、そこには痕跡すら残っていなかった。

 なぜあれだけ激痛を感じたのかというほど痛みは自然に消えうせていた。


「ほらね」

 クレアは勝ち誇ったようににんまりとした。

 どうやらこの女神はのほほんとはしているが相当エスの気があるようだ。女神様が女王様気質とはイヤな異世界だ。


「だからって、やっていいことと悪いことがあるだろうがっ!」

 おれは抗議した。

 半獣神のおれのほうが体格は勝っているしにらみもきかせられる。その点は有利のはずだ。


「あら、なにかしら?」

 クレアは紙を拾い上げる。

「それはおれの……」

 きょうメリアたちに啓示する予定だった教義のメモだ。

「あら、あなたの考えた戒律? どれどれ――」

 クレアはおれに許可など求めず勝手にメモに目を通す。

「いいんじゃない? なかなか良くできてるよ。青臭い理想論が滲みでてキリスト教みたいに童貞っぽくてさ」

「よけいなお世話だ!」

 自信作の教義が急に恥ずかしくなってしまい、羞恥心をごまかすように怒鳴ってメモを奪いかえした。


「バーンくんは新人さんだから、まだわからないこと多いのね~」

 しかし怒鳴られたところでクレアはまったく動じなかった。


「どういうことだよ?」

「わたしたち12神の関係がさ」

「12神?」

「そっか、それすらまだ知らないよね」

「なんだよ、それ。百年ばかり先輩だからってセンパイ風吹かせるなって!」


「そんな怒らなくてもいいじゃない~。ちゃんとお話してあげるからさ」

 クレアはなよっと受け流しながら話を続けた。

「終末この異世界ではね、世界の終末が近づくと全部で12人の神様が地上に降りてくるっていう黙示録があったのよ。で、これまでに11人の神様が顕現したことは確認とれてたんだけど、ここに来てようやく最後の神が現れたってことになったわけ」


「もしかして、その最後って――」

「そう、それがバーンくん、あなた」

「おれが最後の12人目の神……」

「で、伝説では12人の神が揃うとギガントマキアというのが始まることなってるそうよ」


「ギガントマキア?」

「異世界人のあいだでは世界の終わりに起きる最終戦争って認識みたい。神学的な解釈はいろいろあるみたいだけど」

「それって、どういうものなんだ?」

「さあ? でも12人の神様のうち少なくとも何人かは殺し合う運命にあるみたいよ~」


「殺し合うってなんだよ?」

 初耳のおれとしては聞き捨てならなかった。

 こんなわけのわからない内職バイトで殺されるリスクなんて冗談じゃない!


「あくまで異世界人の創った神話の話だからね。信じる信じないはあなたしだいよ。もしかしたら、これから13人目の神が降臨するかもしれないし、最終戦争なんてのもないかもしれないしさ」

 クレアは軽く考えている口ぶりだった。本心かどうかはうかがい知れないが。


「ロマ、どうなんだ?」

 おれは横にいるロマに訊いた。

 しかしロマは一言も口をきかず、ただ首を横に振るだけだった。

 どうやらノーコメントということらしい。なにかを知っているが言えないということだろう。


「でもご覧のとおり、殺そうと思っても神同士はお互いに殺せないってのがわかったんだし、よかったじゃない。きっと殺すには別の方法があるね」


「別の方法? 知ってるのか?」


「さあ、なにかしら? もし知っていたとして教えてあげるほどお人よしじゃないわよ」

 クレアは不敵に微笑む。

 それだけは本心からでた笑みだと確信できた。


 おれが殺し合い……考えただけで怖気おぞけたってしまっていた。

ギガントマキア【Gigantomakhia】

ギリシア神話における宇宙の支配権を巡る大戦で、巨人族ギガースたちとオリュンポスの神々が戦いを繰り広げた。

最強の英雄ヘラクレスがオリュンポス側の味方として参戦したことでも知られる。(wikipediaより)

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