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内職で異世界の暗黒神はじめました!  作者: 蘇芳ヨウ
【第2章】聖戦の胎動
15/22

015 サバトのごとく

 夜の闇と炎、そして原始的な太鼓の音と調音の狂ったフルートのような旋律を背景に大鉈おおなたが振り下ろされた。

 血まみれのびた刃は山羊の首に深々と喰いこみ、鮮血がほとばしると、メリアをまだらに染める。

 篝火に照らされた彼女の顔も腕も胸も脚もどこもかしこも濃厚な赤い斑点を浮かべていた。

 おれは踊りの輪から少し離れたところでつぶさに見てしまった。


 首を斬られた山羊は淋しい目をしながら、わずかに痙攣けいれんして絶命した。

 櫓状やぐらじょうの祭壇の床板にはいくつも穴が開けられていて、犠牲の血は床下に流れ落ちる仕掛けになっているようだ。

 そして祭壇の直下には踊りに加わっていた者のうちひとりが一心に祈りを捧げながら流れ落ちる血を一身に浴びるのだった。

 メリアも、血を浴びる者も、周りで踊る者すら恍惚こうこつの表情を浮かべている。

 しかも祭壇の脇には既に首を斬られた山羊や牛、羊の屍体が山となって積みあがっているではないか。


「なんだよ、これ……」

 それ以上、言葉にならなかった。


 おそらく何らかの儀式であることは理解できる。しかもバーン神、つまりおれをまつるための儀式であろう。

 つまりメリアをはじめ信者たちはおれがこんなふうに生贄いけにえを捧げることを喜ぶと思っているということになる。


 目を背けたくなるほど不快だった。

 こんな血みどろの凄惨な光景を見たいとは思うはずもないし、そもそも生贄として動物を殺して捧げられてもおれには何の役にもたたないではないか。


「――どうしてこんなことになっちまったんだよ!」

 おれが教義を必死に考えているときに彼らはどうおれの思いを曲解してこんな儀式をはじめてしまったのか小一時間問い詰めたいくらいだ。

 しかし、この憤りを怒りの矛先をどこに向けていいものか逡巡しゅんじゅんする。


 そしてロマを召喚した。

 申し訳ないとは思いつつ、やはりクレームを入れるなら、このバイトに引きこんだ張本人である神使ロマしか思いあたらなかったのだ。


「ロマ、どうにかならないのか?」

 おれは感情をむきだしにしてロマに食ってかかった。

 しかしロマの反応はおれの予想に反してきょとんとしている。


「どうかされましたか、アドナイ?」

「どうしたもこうしたも、なんでこんな残酷なことになってるんだよ? おれは一度たりともこんなこと望んでないぞ!」

「そう言われましても信徒たちがアドナイへの信仰を表現するのが祭りであり、儀式ですので」

「しかし、こんなに動物を……生贄は望んでないんだよ!」


「ああ、そういうことですか。まあ、動物より人間のほうが単価高いですからね」

 ロマは得心したように肯いた。

「単価?」

 どうも会話が噛み合っていない。


「ちがうのですか?」

「その単価ってなんだよ?」

「ですから生贄報酬の単価の話じゃないんですか?」

「はあ? 生贄報酬?」


「はい。大型動物なら1頭につき一律500円。人間だと1万円からですからね」

「…………」

 いったいロマは何を言っているのだ?


「たしかに効率から言えば人のほうがいいですからね。でも、いいじゃないですか動物でも。ざっと見て30頭はいるようですよ。あれだけ生贄を捧げてくれたなら1万5000円以上の報酬が期待できますし」


「……もしかしてお金もらえるとか?」

「はい。生贄報酬ですから。信徒数とは別途に支給されますよ。言ってませんでした?」

「初耳だぞ!」

「それは申し訳ありませんでした」

 まったく詫びる気持ちもなくロマが謝る。


 しかし予想外の臨時収入におれは正直なところ心が動かされてしまった。

 いかに残酷とはいえ、今まで信者1人につき1円しかもらえないと聞かされていたのに、その信者が生贄を捧げることで追加料金がもらえるのだ。しかも総額にしてみればかなりの額になるかもしれない。

 だが無垢な動物たちがおれのために殺されてゆくことを考えると罪悪感も感じてしまいジレンマに陥ってしまいそうだった。


「どのみち家畜は屠殺されるのが運命。その肉は食われ、革や角は加工されることになっているのです。それが神への捧げものとしてか、日常の営みの一環としてかの違いだけですよ」

 ロマはおれの気持ちを察するように語る。


「それはそうだが……」

 ロマの言いたいことはわかる。

 おれだってスーパーでパック詰めされた肉を食べている。しかし、その肉は食肉工場で屠畜され、解体された後に精肉されたものだという知識はあるのだ。

 しかし頭ではわかっていても、いざその場面をまざまざと見せつけられると、こういったことに不慣れなおれは動揺してしまうのだ。


 おれの頭の中は真っ白になってしまった。

 きれいごとだけで考えた教義なんて空理空論、まったく意味のないものじゃないのかとさえ思えてきた。

 おれはこんな儀式の最中、メリアに啓示を与えるべきなのだろうか?

サバト【Sabbath,Sabbat】

ヨーロッパで信じられていた魔女あるいは悪魔崇拝の集会。魔宴、魔女の夜宴・夜会ともいう。

ヨーロッパでは土曜の夜に魔女が集会を行うと信じられ、中世から17世紀ごろまでサバトに参加した罪を告発されて裁判にかけられた無数の人々の記録が残っている。

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