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内職で異世界の暗黒神はじめました!  作者: 蘇芳ヨウ
【第2章】聖戦の胎動
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013 俺のドグマ

 最近、メリアはよく瞑想をすることが多くなった。

 そして熱心におれに対して祈りを捧げてくれる。


 学のない羊飼いの娘でしかないメリアなので儀式的な様式とか形式といったものは特になく、この土地に広く信仰されている女神クレアへの祈り方を見よう見まねといった感じだ。

 しかし祈りの所作や定型句の正しさなどどうでもよかった。彼女の一途な熱意こそがおれをの心を震わせる。


 おれはときどきメリアに声をかけてみた。

 おれの言葉が伝わるときもあれば、あまり伝わらないときもあって、言葉を交わして会話をするにはやや難があるのが現状だった。


 このことをロマに尋ねると正確に伝達できないのは8:2でおれのほうが悪いらしい。まだまだ修行がたりないということだ。


 それでも信徒は順調に増え続けていた。

 村の中におれを祀る神殿とほこらの中間くらいの小さな宗教施設もできた。

 正邪審問会での神の声の奇蹟がよほど民衆の心に訴えたようで、やはり大衆への布教には奇蹟の存在が大きいのだなと改めて思った。

 とはいえ民衆のほぼ全員はおれの声を聴きとれなかったらしい。雷鳴や嵐の声がしたというだけで言葉の意味まではわからず、おれの怒りの念だけを敏感に感じとったようだ。

 これもロマ曰く神の声を聴くことができるのは神1柱につき預言者ひとりだけだという。つまりメリアこそがおれ――バーン神の預言者なのだ。


 そんなメリアが瞑想するのは神からの啓示を待っている。

 啓示とはつまり、まず最初に神の教えであり教義ということになる。

 宗教指導者としての経験も自覚もない彼女にとって日に日に神の奇蹟を聞きおよんで入信してくる者たちを御するのはつらく厳しいことだったのだ。

 信者の数は現時点で百人を越えたくらい。つまりおれの月収はまだ100円ちょっとということになるが、メリアひとりでは遠に限界を越えていることもわかっている。


 毎日、祈りを通して必死におれに向けて訴えかけてくる。

 おれもまた神としてちゃんと向き合わなければという決意を持つに至った。

 しかしおれは平均的な日本人であるがため宗教に関する知識が決定的に欠如していた。


 その日、おれは大学の講義が終わってから桜子に相談してみることにした。彼女なら宗教に詳しいからきっと頼りになるはずだ。

 幸運にも先日の学内カフェテリアでSNSの連絡先を交換していたのでダメ元でお願いしてみたら、なんと快諾してくれて、あのときのカフェテリアで待ち合わせすることにした。

 なんていい子なんだ。まさに天使や! 神であるおれが言うのもなんだけど。


「つまり桐悟くんは宗教の教義、ドグマの作り方を知りたいと?」

「そう、それ!」

 桜子はおれの自分でも半分理解できていないしどろもどろな説明を的確に汲みとってくれた。

 実はバイトで神様やってて教義をつくらないとマズイ状況なんだとは正直には言えないこともあり説明に一苦労したのだが、ものわかりのいい優秀な人でよかった。


「やっぱり桐悟くんっておもしろい人ですね」

「あ、やっぱり、そう思う?」

「まあね。でもいいと思います」

「それ、褒められてるのかな?」

 不安げな目で桜子の表情をうかがった。


「言葉通りだから安心して。きょうびドグマに関心のある人は貴重だから。動物で言ったらレッサーパンダ級の珍獣だよ」

「……珍獣。それもジャイアントのほうじゃなくてレッサーなんだ」

 おれはどう反応していいのか決め兼ねて半笑いになってしまっていた。


「わたしは白黒のジャイアントパンダより腹黒いレッサーのほうが好きだけどな」

「え、腹黒いの?」

「そうそう、お腹の毛が真っ黒」

「あはは、毛のことね」


「閑話休題して話を本題に戻すと、ドグマなんてものは特に難しいものじゃないし、そもそも神様の言葉なんて言ってるけど、実際のところは人間の考えたことだろうし」

「たしかに」

「なので意外と普通だし、だいたい内容も似てくるんです」

「そうなの? 宗教によってすごく違うように見えるけど?」


「そんなことないよ。たとえば有名どころだと旧約聖書の《モーセの十戒》と仏教の《五戒》、それとイスラム教の《六信五行》あたりを押さえておけば、世界の宗教の大半はカバーできるんじゃないかな」

「へえ、そうなんだ。ありがとう。参考になるよ!」

 おれは桜子のアドバイスをメモにつぎつぎと書きつけていった。


「それでさ、桐悟くんは新興宗教でもはじめるつもりとか?」

「いや、そんなことないけどさ……ただちょっと気になっちゃって」

「ふぅーん、そうなんだ。でも似合うと思いますよ、教祖様姿の桐悟くんも。なんか白いだぶだぶの服なんか着ちゃって手を広げるポーズとかしちゃってさ」

 桜子は本心から言ってるような笑みを浮かべる。


「それって……なんかカルト教団みたいじゃない?」

「ちがうの?」

「だからさー、べつに新興宗教をはじめるわけじゃないから!」

 心苦しさを感じながらもおれは否定した。

 はじめたのは教祖ではなく神様なのだと心のなかで苦しい言い訳をしながら……。


「どっちでもいいけどさ、この手の話はあまり他の人には言わないほうがいいですよ」

 桜子はさっと表情を変えると真顔で忠告した。

「たしかに日本では新興宗教にはいいイメージがないもんね」


「そうそう。だから相談するなら、わたしだけにし、て、ね!」

 またころっと表情を変えて桜子は満面の笑みを浮かべたのだった。


「え……あ、ありがと………」

 あまりのことにドキッとしてしまった。

 この場合、この発言をどう解釈すればいいのか非モテなおれにはまったくの謎でしかなかった。

教義【dogma】

宗教の教えを体系化したもの。多岐に亘る宗教があり、そのいずれにも独自のこれが存在し、各々の宗教を信奉する人が、これに則って物事を理解したり判断する助けとなるものとされる。(wikipediaより)

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