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内職で異世界の暗黒神はじめました!  作者: 蘇芳ヨウ
【第2章】聖戦の胎動
12/22

012 ふたりめの神

すなはち汝の神ヱホバかれらを汝にわたして汝にこれをうたせたまはん時は汝かれらをことごとく滅すべし。

彼らと何の契約をもなすべからず、彼らをあはれむべからず、


tradideritque eas Dominus Deus tuus tibi, percuties eas usque ad internecionem.

Non inibis cum eis foedus, nec misereberis earum,


   申命記7章2節より

 小高い丘の上に屹立きつりつする荘厳そうごん大伽藍だいがらん、レント大聖堂の中心にレザーナ神の地上の代理人の控える教皇座の大広間はあった。


 無数の彫像と色鮮やかなタペストリーに囲まれた大聖堂の中央にあって、その教皇座はあまりにも古ぼけた木の椅子にすぎなかった。

 おそらく数百年を経た黒い椅子は既に朽ちかけ、泥のようにもろそうである。とても幼子ひとりの体重とて支えるだけの強度はないだろう。ゆえにこの椅子に腰かける者の姿は一度も見たことがない。


 だがそれこそがレザーナ教にとって最も偉大な聖遺物であり、至宝とされる教皇座なのだ。 

 ゆえに教皇座より一段さがった場所の端に黄金造りの椅子が据えつけてあり、時の教皇アストリオス4世は謁見の際には教皇座にはつかず、黄金の椅子を常用することになっていた。

「畏れながら申し上げます、教皇聖下」

 褐色のフード付きローブを纏って跪いたのは、声からするとまだ若い女だ。

 修道僧の身なりにしては奇異なことである。


「うむ」

 黄金の椅子に深々と座った紫色の長衣ローブの教皇はゆっくりと、そして常に堂々と肯く。

 所作のひとつひとつ、言葉の一言一言が神の権威を示していた。

 長身僧衣の壮年の男だ。豊かな黒い髪、神経質そうな色素の薄い目、凛々しい鼻筋、意志の強そうな口元をしている。


「ただいま手の者のしらせによりますと、ついに十二柱目の神の神託しんたくがくだったとのことです」

 うやうやしく僧衣の女は述べると、毛織物の分厚いフードを脱いだ。

 肩口で切りそろえた銀髪のショートボブが大聖堂に射しこむ柔らかな陽射しに反射する。

 一分の隙もなく整いすぎた横貌よこがおはかえって不自然さを醸しだしているくらいだ。


「ようやく十二神が揃ったわけだな」

「左様でございます」


「で、どの神が降臨したのだ?」

「バーンとのことにございます」

「……バーン? 外典第23章にある森と家畜の神か?」

「はい」

「意外であったな。最後の神がバーン程度とは」

「まったくもって。外典に記されていた神にはもっと有力で強大な神が残っていたといいますのに」


「まあ、それも神の宏遠な計画のうちなのだよ、アレキオ」

 そう言って教皇はみすぼらしい教皇座を見やる。

「ごもっとも」


「して、バーンの預言者はどんな者だ?」

「バーンの預言者はルミニア国の羊飼いの娘とのことです。歳は14ばかり。地位も財もない。教養さえない。とるに足らぬ候補かと」

 アレキオと呼ばれた僧衣の女の言葉にはありありとさげすみ色を浮かべていた。


「油断はならぬぞ。たとえ弱小神のとるにたらぬ人間に見える預言者だとしても、それは大いなる意思によって選ばれた者、聖典に預言されているものなのだからな」

「申し訳ありません。肝に銘じます」


「終末戦争ギガントマキアまでに趨勢すうせいを決めなければならないな。預言のとおり十二神のうちどの神がギガントマキアまで残り、そして邪神たちと対するのかをな」


「はい。聖典の預言を遺漏いろうなく完遂することこそ偉大なるレザーナ神への勤めと心得ております」

「励めよ。神は常に見ておられる」

 教皇は天空を見透かすように大聖堂の天井を仰ぐ。

 そこには巨大なドームとなった天井に異形の神とも怪物ともつかぬものどもが相い争う光景が描かれた精緻せいちなモザイクが見えているはずだ。


「奥殿の巫女みこたちの御神託によれば、邪神復活の予兆がすでにあらわれているそうだな」

「巷間の精神の薄弱な者のあいだでは、しばしば邪悪で奇怪な夢を見るという者も相次いでいるとか聞きおよんでおります」


「預言のとおりギガントマキアに備えなければならぬ。この意味がわかるか、アレキオ?」

 教皇はアレキオを直視することなく、独り言のようにつぶやいた。


「弱小神ごときの勢力が広がらないうちに預言者には我らの慈悲を与えましょう。散るなら早いほうが苦しまずにすみますから」

「良きにはからえ」

かしこまりました、聖下」

 アレキオは再びフードを深々とかぶって顔を隠した。


「神の御目の下に」

 教皇は慣れた手つきでアレキオに手を差しだすように伸ばす。

「神の御目の下に」

 アレキオも胸に手を当てて復唱する。

 それがわたしへの敬意のあらわす定形の聖句なのだ。


 鄭重ていちょうに辞退の言葉を述べたアレキオは教皇座の間を床を滑るようにして退出していった。


「ちゃんと見てるからね」

 わたしはふたりに向かってぽつりとつぶやくと、そっと千里眼を閉じた――

預言者【prophet】

自己の思惑に拠らず、啓示された神の意思を伝達、あるいは解釈して神と人とを仲介する者。

しばしば共同体の指導的役割を果たす。

イスラム教的にはアダム、ノア、ロト、モーセ、ダビデ、ソロモン、イエス、ムハンマドなど25人の預言者がコーラン (クルアーン)に登場する。(wikipediaより)

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