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歪んだ愛  作者: S.S
第八章 無響のケージ

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第52話:孤独

新しい檻での生活は、高橋大輔の精神を、さらに深く、ドロドロとした無の領域へと引きずり込んでいった。

この部屋には「音」がなかった。壁一面を覆う防音吸音材のせいで、自分が立てた息遣いや、手錠の鎖が擦れ合うかすかな音さえも、空間に吸い込まれて一瞬で消え去ってしまう。耳を澄ませても、外を走る車の音も、雨が屋根を叩く音も、風が木々を揺らす音も、何一つ聞こえない。完全なる無音。それは、人間を数日で発狂させるほどの、圧倒的な精神的拷問だった。

その絶対的な孤独の暗闇の中で、唯一の「世界の形」として現れるのが、相原美咲という一人の少女の存在だった。

「大輔さん、お好みの朝食ですよ。今朝は、大輔さんの大好きな焼き魚とお味噌汁です。お口、あーんしてください」

午前(と思われる時間)、美咲は白地に美しい水玉模様の割烹着を着て、温かいトレイを持って寝室へと入ってきた。

彼女は会社を完全に退職したため、今は24時間、すべての時間を高橋の飼育と管理のためだけに費やすことができる。彼女の顔には、かつてオフィスで見せていたような疲労の影は一切なく、理想の箱庭を完成させた芸術家のような、狂気的なまでの充実感と美しさがみなぎっていた。

高橋は、彼女が差し出した箸から、焼き魚の身を大人しく口に含んだ。

今の彼にとって、美咲が部屋に入ってくる瞬間だけが、自分が「生きている」ことを実感できる唯一の時間だった。無音の恐怖に押し潰されそうになる暗闇の中で、彼女の声、彼女の肌の温もり、そして衣服から漂うあのフローラルな香水の匂いだけが、彼の壊れかけた脳を繋ぎ止める唯一のアンカーだった。

「美味しいかい、大輔さん。私ね、大輔さんがここで私のことだけを見て生きてくれるようになって、本当に毎日の料理が楽しいんです」

美咲は優しく高橋の頬を撫で、お味噌汁をスプーンで彼の口元へと運んだ。

「うん……すごく美味しいよ、美咲ちゃん。君が来てくれると、すごくホッとするんだ。この部屋、静かすぎて、一人になると頭が割れそうに痛くなるから……」

高橋の声は、すっかり幼児のように弱々しく、彼女への絶対的な服従を誓うトーンに固定されていた。

美咲の狙いは完璧だった。音を奪い、光を奪い、すべての五感を遮断した上で、自分だけを「唯一の救い」として与える。これにより、高橋の精神は完全に崩壊し、彼は自らの生存のために、美咲を心の底から渇望し、依存するように脳の構造そのものが書き換えられてしまったのだ。

「大丈夫ですよ、大輔さん。私がずっと、ここにいますからね。リハビリのボール握り、今日も午前中に三百回、頑張りましょうね。ホワイトボードに、ちゃんと記録してくださいね」

美咲は高橋の左手に、新しいリハビリ用の器具を握らせた。

高橋は「うん、分かった」と素直に頷き、彼女に褒められたい一心で、指先を何度も機械的に動かし始めた。彼の中に、かつて自分を救おうとして会社に現れた調査員の記憶や、大学時代の友人たちの顔は、もう一ミリも残っていなかった。彼の小さな檻の世界では、相原美咲こそが、自分を生かし、生殺与奪の権を握る、唯一の神だった。

食事が終わると、美咲はいつものように琥珀色のシロップ薬を差し出した。

高橋は自ら進んで口を開け、それを喜んで飲み干した。薬の霧が脳を包み込み、心地よい睡魔が這い上がってくる。高橋は美咲の膝の上に頭を乗せ、彼女の指先が髪を梳いていく至高の快感に身を委ねながら、ゆっくりと目を閉じた。


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